プロパガンダを見破る方法(初級編3:パレスチナ紛争)

パレスチナの過激派ハマスとイスラエル軍との衝突が、今世間を騒がしています。パレスチナ問題はとても複雑で根も深く、自分もまだ表面的なこと程度しか理解できていませんが、SNS上でも既にプロパガンダや確証バイアスにやられていそうな人々の会話を、多々目にしました。

前提知識の乏しかった私でも、プロパガンダ主張(「」内太字で記載)にどうして気づけたのかを具体的に紹介しながら、この問題を掘ってみました。

「ユダヤ人はアラブ人から購入した、パレスチナの土地に住み始めた」

「アラブの土地に勝手に侵入したと見なして、アラブ諸国側が攻撃した」 

ネットでは個人がソースも示さず、“ユダヤの大富豪ロスチャイルドが、12.5万エーカー(約506㎢)の土地を購入して~”のような言及をしているのもよく見かけました。もしかしたらどこかの本に、そう書かれているのかもしれません。

ただこの手の主張をする人は、“ユダヤ人が正統な手続きを踏んでいたのに~”という論調に展開しがちですが、私からすると違和感しかありませんでした。いくら大富豪だとしても、国一体の土地を買い占められたというのは、果たして本当だろうか?と。今の時代ならネオリベラル主義により、世界の富をごくごく一部のビリオネアのみで占める構造が、既に出来上がっているのでまだあり得ますが、これはそれよりはるか昔の時代です。

こういう直感的な違和感はプロパガンダを見破る上で、とても役立つものです。当時の土地所有事情を確認するのは、さほど難しくも無さそうだったので、軽く調べてみました。

実際にJNF(ユダヤ国民基金)やPICAなどの企業が土地の買収を進めており、購入された土地があったのは事実でしたが、やはりそれでも割合的にはごく1部でした。

1947年の時点でユダヤ人は、パレスチナの土地のせいぜい7%未満を所有していただけであり、1948年の戦争後、パレスチナ人の80%が家、農場、ビジネスを剥奪され、それが今のイスラエルの領土の殆どを占めています。 

https://www.palestineremembered.com/Articles/A-Survey-of-Palestine/Story6686.html

つまりパレスチナ紛争で勝利したユダヤ人側が、パレスチナ人の土地を奪ってイスラエルを建国したという、聞こえの悪い事実を誤魔化す印象操作と言えます。

「国連分割決議を拒否して、アラブ諸国が戦争を仕掛けた」

「パレスチナ紛争の主原因は、アラブ諸国がつくった」 

確かに長年泥沼化したパレスチナ問題を解決する上では、国連が仲裁に入るしかなったかもしれません。ただ元々パレスチナを植民地支配していたイギリスでさえ、アラブ人とユダヤ人の両方が受け入れられない限り、いかなる協定も「履行することができない」と考え、そのような場合には総会に代替履行権限を提供するよう求めていました。

しかしホロコーストでのユダヤ人へのジェノサイドを、見て見ぬふりをした欧米諸国が、WWⅡ後の彼らへの贖罪意識からか、ほとんどは肥沃な土地ばかりを、人口割合に見合わない形で分配する、ユダヤ人に極めて有利な分割案になっており、アラブ諸国は猛反発していました。結局決議もアメリカによる工作での勝利でしかなく、元々問題をはらんでいたのも明白でした。

国連総会で決議が採択されるためには、3分の2の賛成が必要でしたが、シオニスト(ユダヤ人国家建設を求める運動家)が議事妨害を行い、投票は3日間延期。その間に彼らは海外援助をちらつかせた、アメリカ上院議員26名の署名入り電報を、支持を表明していない国へ、分割案に賛成するよう送り、採決に至りました。この工作の存在については、多くの国が報告しています。

https://en.wikipedia.org/wiki/United_Nations_Partition_Plan_for_Palestine

もし投票が予定日に行われていたら、3分の2は得られなかったにも関わらず、アラブの意向を汲まず、アメリカのロビーによりゴリ押しした事で、アラブとの紛争に発展したのは至極当然ともいえます。

パレスチナ人はある日いきなり自分たちが住んでいた土地を追われ、別のエリアへ強制移動させられるわけですから、極めてセンシティブな議案だったことは間違えなく、中東に軍事拠点の欲しかったアメリカが、強引に案を採決させただけの話を、さも“アラブ側が問題を引き起こした”かの様な論調で片付けるのは、欧米プロパガンダの典型とも言えるでしょう。

国連について:

もっと言ってしまうと、国連という組織そのものは、戦勝国の利権を守る為に生まれた様なもので、最初から公明正大にはなり得ないので、過度な幻想を抱くべきではないのです。

勿論、それでも人道的見地から有意義な活動はしています。ただ一番の問題は、常任理事国によるパワーゲームが必ず介在するため、安保理1つの決議を得るにも、侵略側が棄権するだけで成立せず、ほとんど抑止力にすらならないことです。

国連の有用性でいえば、紛争時の人道確保努力以外に、レポートの信憑性は期待出来ます。戦争当事国発のニュースには、確実にプロパガンダ要素が含まれますが、その点、国連は複数国が介在するので情報の歪曲や隠ぺいが困難であり、信頼性の高い情報を得る上で役立ちます。

パレスチナ問題のもう1つ根源:

重要なのは、国連分割決議を根拠に建国した筈のイスラエルが、分割案より遥かに広大なパレスチナの土地を占領したことです。そのためパレスチナ避難民が約70万人も生まれ、イスラエルの制定した非人道的ルールにより、元の地に帰ることもできなくなりました。

https://www.un.org/unispal/document/auto-insert-208638/

国連分割決議を根拠にイスラエル建国の正当性を主張しつつも、その後はイスラエルの目に余るパレスチナ人迫害や非人道的行為に対して、国連から非難勧告も出されていますが、アメリカの後ろ盾もあり都合よく無視できている、ダブルスタンダードといえます。


「ハマスにユダヤ根絶思想があるので、共存できない」 

1988年の設立規約には確かに反ユダヤ思想があります。当時の文書が家や土地を追われ、イスラエルによる殺人、国外追放、民族浄化行為を目撃した人々によって書かれたという事実もありますが、彼らが長年受け続けている迫害の歴史から、本音としてそういう思想が根付いていても不思議はないでしょう。

しかし2017年には、ハマスは今後の組織を統治するための新たな規約を発行し、その設立文書を無効にしています。

新しい規約の第 16 条:

ハマスが断言するのは、その対立はシオニスト・プロジェクトとのものであり、ユダヤ人の宗教を理由とするものではないということだ。ハマスは、ユダヤ人だからユダヤ人と闘うのではなく、パレスチナを占領するシオニストと闘うのだ。

第 20 条:

ハマスとしては、1967年6月4日の路線に沿ってエルサレムを首都とし、難民や避難民を追放された故郷に帰還させ、完全な主権を持つ独立したパレスチナ国家を樹立することが、国民的合意の方式であると考えている。

ハマスは、常にユダヤ教とユダヤ人を、彼ら自身の植民地計画と同一視しているのはシオニストであるとも言及しているように、第16条は反ユダヤ主義を明確に否定し、第20条はパレスチナ人の権利を犠牲にしないイスラエル国家の存在を認めており、ハマスの方針は、今や米国、欧州連合(EU)、そしてほとんどの西側諸国の方針とも一致しています。

https://www.middleeasteye.net/news/hamas-2017-document-full

つまり今のハマスの政策は、国境と入植地の拡大というイスラエルの執拗なプロジェクトよりも、国際法に近いものでした。

ハマスはまた、長年にわたるエジプトのムスリム同胞団との関係を断ち切っていました。エジプトはイスラエル主導の封鎖によって強制された人工的な国境の向こう側、文字通りガザから数メートル離れているにもかかわらず、西側諸国、特にその湾岸諸国は、しばしば一種の国境を越えた同盟関係として非難していました。

https://www.reuters.com/article/us-palestinians-hamas-document-idUSKBN17X1N8

シオニズムとその支持者が常に反ユダヤ主義という非難をする根拠として、1988年のハマス創設文書を持ち出すのは、それが彼らにとっては都合がいいから、という見方もできます。

一方でイスラエルでは、多くの過激派の見解や人物が社会的に受け入れられており、2014年時のイスラエル国会副議長は、かねてよりガザ地区をイスラエル領と主張しており、「最大火力でガザ全体を徹底殲滅」し、ガザ地区再占領とユダヤ人による入植、武装勢力関係者およびイスラエルに忠誠を誓わない非ユダヤ人住民の追放などを行うよう主張。 

https://electronicintifada.net/blogs/ali-abunimah/expel-palestinians-populate-gaza-jews-says-knesset-deputy-speaker

今の戦争でもイスラエルのサール大臣はチャンネル12ニュースに対し、ガザは「戦争終了時にはもっと小さくなければならない」とし、「イスラエルに対して戦争を始めた者は、領土を失わなければならない」と発言。

時代錯誤の植民地主義者が国を動かしており、ハマスを非難できるようなスタンスにはそもそも居ないと言えます。

「パレスチナ市民に死傷者が出るのは、避難の電話があっても逃げ遅れたか、邪魔された副次的被害」

イスラエルは民間人の犠牲を最小限に抑えるために、ガザ住民に武器が保管されている可能性のある家から立ち去るよう促す数千件の携帯電話メッセージを送信したが、一部の住民は、多くの近隣地域が同じメッセージを受信したため、どこにも行くことができないと不満が噴出。 

イスラエルの爆弾は学校などの民間施設の近くに着弾し、イスラエルが意図的にパレスチナ民間人を標的にしていると主張する者もいた。

https://en.wikipedia.org/wiki/Hamas

国境なき医師団(MSF)は、7月28日のガザ地区シファ病院へのイスラエル軍の攻撃に「強く非難する」声明。「約2000人が身を寄せる病院へ爆撃があったことは、ガザ地区の民間人には安全な場所はなく、緊急援助の提供も難しいという現実を示している」と指摘。ガザ地区には15の保健医療施設があるが、業務を継続しているのは4ヵ所だけ。

https://en.wikipedia.org/wiki/2014_Gaza_War

現在のイスラエルによるガザ空爆でも、救急車や病院をも“ハマスが居る”という主張で、公然と空爆しており、更には市民へイスラエル軍が指示した避難場所でも空爆に晒されています。

https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-67294294

ガザ市の住民を含むその地域のすべてのパレスチナ人には、南への避難のため24時間の猶予が与えたイスラエルの声明は、国境なき医師団、世界保健機関、国連人権高等弁務官事務所などの多数の機関が「言語道断」で「不可能」であると非難し、命令の即時撤回を要求。

安全なルートの1つで、女性と子供を含む70人が死亡。

https://en.wikipedia.org/wiki/2023_Israel%E2%80%93Hamas_war

世界一人口密度の高いガザで、無差別攻撃を受けている上で、安全に避難できる場所などそもそも存在するのか?という話で、イスラエル軍が市民への被害を避けるケアすら建前上でしかなく、国際法に準じる気もないのは明白です。

「アル・アハリ・アラブ病院の爆発は、ハマスのロケット誤射」

NYTがイスラエルと米国の公式見解に疑問を投げかけるビデオ分析を発表。広く公表されたパレスチナのロケット弾が空中で分裂したとされるビデオは、実際には数マイル離れたイスラエルのロケット弾の分裂を示しており、病院の事件とは無関係と判明。

https://www.nytimes.com/2023/10/24/world/middleeast/gaza-hospital-israel-hamas-video.html

ガザ保健省はイスラエルの空爆によるものであり、病院で少なくとも500人の民間人が死亡したと主張。

「ガザ保健省が報告した死者数は、信憑性がない」

米国バイデン大統領が、信憑性に「自信がない」と発言。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、30年間ガザで活動し独自の調査を行ってきた結果、ガザ保健省の集計は信頼できると声明。

 10月26日、ガザ保健省は6,747人の個人名とID番号、および身元不明の殺害者281人を記載した212ページの文書を公表することで対応。ガザで登録されたすべての死亡は、イスラエル政府によって承認された人口登録の検証済みの変更の結果。

https://en.wikipedia.org/wiki/2023_Israel%E2%80%93Hamas_war


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