プロパガンダ検証(ウクライナ戦争)
ウクライナ戦争において、親露/反米/反ウクライナ派の方々が、よく主張されていたロシアの様々なプロパガンダ/誤情報/偽情報(オレンジ字)に対する、反証や反論のまとめです。
【NATO東方拡大について】
“米国のベーカー国務長官がソ連のゴルバチョフ書記長に対して、「NATO軍の管轄は1インチも東に拡大しない」と口約束をした。”
NATOは拡大をしないなどと、公式に認めた事は一度も無く、当然そういう約束した、公式の条約も署名入り文章も存在しません。ビジネスでも海外取引をしたことが少しでもあれば、非公式の口約束など、何の拘束力も効力も無いと分かるように、この話だけでも本来は詰んでいる話です。
しかもエリツィン時代の1997年5月に締結された、NATO・ロシア基本議定書(NATO-Russia Founding Act)で、NATO側は新規加盟国の防衛について、「実質的な戦闘部隊の追加的常駐」によらず、増派等によって対処するとの意図を表明しています。
それは即ち“今後NATOは拡大しません”などという約束は1行も無い上に、むしろ新規加盟国での扱い方にまで言及しており、これにロシアは署名までしています。
原文はコレ↓
当時のNYTにも、エリツィンはしぶしぶながら、中央ヨーロッパの旧ソ連だった国のNATO拡大に同意したという記事がありました。
なお背景としては、ロシアにG8の地位とWTOへの早期加盟への支援を約束した見返りに、ポーランド、ハンガリー、チェコのNATO加盟を容認させたらしいと、他の記事にありました。
またエリツィンは国内の支持率を気にして、NATO拡大への姿勢を変化させており、アメリカもその事情を配慮しつつも、時間を掛けてこの議定書締結に至ったようです。
プーチンはこの議定書内容に対しても既に違反を重ねており、NATO側はとっくに破棄しても当然の状態でしたが、むしろ今の戦争まで辛抱強く準拠して来た方です。
ともかくゴルバチョフ時代にあった単なる非公式の口約束は、エリツィン時代で既に明確に無効性まで確認されていた話であり、あからさまなプーチンのプロパガンダであった事がわかります。
またそもそもNATOの拡大はウクライナのコントロール外であり、ウクライナとは無関係なのに、なぜウクライナがNATO拡大を理由に、ロシアから侵略を受けなければならない根拠になり得るのか、根本から意味不明です。
【ドンバス紛争時でのロシアの関与について】
ロシア政府は、ドネツクやルガンスクなど“独立国家”からの支援要請を受けて動いているという主張から、ドンバス紛争時にしばしば直接関与を否定していましたが、反政府武装テロ組織(分離主義民兵ら)は、ロシアから武器や物資を受け取り、そこで訓練を受け、3~4000人のロシア国民が隊列を組んで戦っていることを、ウクライナ東部の親ロシア派反政府勢力指導者も認めており、直接関与を示す証拠は、当時からすでに色々と見つかっていました。
2015年9月までに、大隊レベル以上の分離主義部隊は、ロシア軍将校の指揮下で行動するようになっており、ドンバス紛争自体が、ウクライナの内戦に見せかけたロシアによる侵略プロセスの一環だったといえます。
参考ソース:
反政府武装テロ組織(分離主義民兵ら)は、ロシア軍の代理。
ウクライナ東部で捕らえられたロシア兵10人が、“偶然”国境を越えた、という苦しい弁明。
ドネツク分離運動の主要人物はロシアに対し、ウクライナ東部に平和維持軍を派遣するよう要請。
【オデッサの惨劇について】
“ネオナチがロシア系を労働会館へ閉じ込め、意図的に火を付け焼き殺した”
よく親露/反米/反ウクライナの方が、“ネオナチによる一方的なロシア系の虐殺”の事例として挙げてくるこの惨劇ですが、そういう類いの話では無く、むしろ親マイダン派のデモが、反マイダン派から攻撃を受け、そこから双方による暴動へと発展したのが真相でした。
反マイダン派には、武装した反政府テロ勢力が多く含まれていました。また直接の火元がどれかは、諸説も色々あり不明です。
多くの人が 1 階の他の出口から建物を出ず、高層階に逃げて死亡しており、消防隊現着に最大40分も掛かった事、地元警察の介入の遅さが、大量の犠牲者を生みました。
不可解な事:
消防の責任者も警察署長も、反マイダン/親ロシア派でありながら、あえて犠牲者が多く出る様な動きを取っていましたが、どちらも事件後すぐ、まるで計画通りであるかのようにロシアへ逃亡し、新しい人生を始めています。
反政府テロ武装勢力は、裏ではロシアによる資金/武器/人員支援を受けていた事からも、ロシアがウクライナ東部の政情不安的化の為に、紛争の火種を意図的に用意した可能性すらあるという事です。
参考ソース:
【ロシア系の虐殺について】
"ウクライナ紛争は、2014年からウクライナのネオナチ政権が、ドンバス住人を大量に虐殺し続けたことで起きた"
ロシアからの侵略にウクライナが防戦する過程で、市民が犠牲になる様に、今の戦争と全く同じ構図が、正にドンバス紛争の8年間でもあったと考えるのが妥当で、「市民が犠牲になった」という事実側面だけを切り取り、まるでウクライナがロシア語話者を、意図的に弾圧/虐殺していたかの様に歪曲したのが、ロシアのプロパガンダの正体だったと言えます。
これは今の戦争で起きていた事、そのままとも言えますし、その場合、「犠牲になった市民の多くは、ロシア語話者」とも描写出来ます。そもそも“ロシア語話者を、意図的に弾圧/虐殺していた”とされる地域は、反政府テロ武装勢力の支配側だった筈ですが、支配出来てもいないエリアで、逆にそんな蛮行を自由に出来るはずもないでしょう。
参考ソース:
ドンバス紛争で反政府テロ武装勢力が、民家の奥深くに入り込んでいた。
殆どの市民の犠牲は、無差別の空爆/砲撃によるもの。
【ボネル氏の動画について】
Anne-Laure Bonnel(アンヌ=ロール・ボネル)のプロパガンダ動画 『ドンバス 2016』
"おびただしい数の事実と証言をもとに、アメリカやNATO西ヨーロッパ諸国にとって「都合の悪い真実」と「残虐な不条理」の映像"
ボネル氏の映画で被害者インタビューしていたのは、全て反政府テロ武装勢力の役人達で、反政府テロ武装勢力の支配側では、殆どの報道陣も閉め出されていたそうです。そんな状況下で出てくる証言なら、ウクライナ批判以外はあり得ないことは自明です。また出回っていた他の被害者インタビュー系動画でも、同様だった可能性まであります。
冒頭ではポロシェンコ元大統領が、ドンバスの東部住民に対して「仕事もできなくなり、年金も貰えなくなる、子供は学校に行けず洞窟で暮らすようになる」と発言しているシーンから始まりますが、これがもう典型的な印象操作です。
ロシアがクリミア占領をした事で、既にウクライナとロシアは明確に戦争に突入しており、そういう状況や背景を敢えて触れずに、誰かの発言を都合よく切り取って、誤解を与える編集に仕上げたプロパガンダ動画といえます。
参考ソース:
こちらでも詳しく解説しています。
【ドンバス紛争で13000人虐殺ついて】
“ドンバス紛争で13000人ものロシア系民間人が虐殺される、ジェノサイドがあった。”
このネタを当初主張したのも上述のボネル氏で、それをロシア政府も拡散していたわけですが、これが完全なる誤情報であったことを、後にボネル氏本人も認めています。
期間の違いで既出の数値とは多少変化していますが、4/14/2014~12/31/2021までの紛争で14,200〜14,400人が亡くなっており、少なくともその中に3,404人の民間人が含まれていたという話でしかない上、どちら側からの攻撃で亡くなったかも不明です。またその他は、両軍の軍関係者です。
つまり紛争全体で軍人も含めて亡くなった方の総数を、”アゾフなどネオナチのウクライナ側が全て行った残虐行為の数”として、強引に読み替えており、”8年間もの間、少なくとも13,000人以上のロシア系住民を虐殺”というジェノサイドネタが、偽/誤情報でしかないのは、証拠レベルで判明しています。
参考ソース:
ウクライナにおける紛争関連の民間人死傷者(期間:4/14/2014~12/31/2021)
【ミンスク合意について】
“ミンスク合意を破らなければ、今の戦争はなかった”、”ウクライナがミンスク合意を一方的に破棄した”、という様な主張をよく目にしましたが、何層にも渡ってナンセンスと言えます。停戦合意は少なくとも両側で破っていた上、そもそもロシアがブダペスト覚書に違反した、明確な侵略行為をクリミアで始めたのがこの戦争の発端なので、ウクライナがこの戦争で非難される道理がまずありません。都合よく戦争の責任転嫁をする、分かり易いプロパガンダと言えます。
更には2003年の時点でも既にロシアは、トューズラ島(クリミア半島のある都市)の侵略を画策しており、侵略意図を目的にしたロシアが、ミンスク合意で素直に引くという筋書きから、説得力も皆無であり、ただの絵空事でしょう。
参考ソース:
双方は9月5日に停戦が合意されて以来、停戦を破ったとしてお互いを定期的に非難。
双方は9月にミンスクでの停戦に合意したが、停戦開始とほぼ同時に破られ、ここ数日で完全に崩壊。反乱軍が住宅地の近くからウクライナの陣地を砲撃し、ウクライナ人が不正確に反撃し、民間人が死亡するという長年のパターンがここ数日継続。
今の戦争で人道回廊の合意が全然履行されず、双方が相手を非難しあっていたのと、恐らく似た状況だったと見るべきでしょう。
【ブダペスト覚書の合意について】
“ブダペスト覚書は、ウクライナの軍事的な中立化と国家主権をうたったもので、欧米NATOはこれに違反”
塩原俊彦氏の著書、『ウクライナゲート』(p.17)に、そういう主旨で記述されている様ですが、その著書は手元になく読めませんので、とりあえず塩原俊彦氏の著書を鵜呑みして発言されていた方の主張に沿って検証します。
『米国やウクライナの人々は、最初にマスクをした軍人らが武力行使をはじめてマイダンで反政府運動』
マイダンでの(親露派)ヤヌコビッチ政権に対する抗議運動は、平和的抗議デモとして始まっています。次第に警察や治安部隊との衝突が起き、平和抗議者への攻撃が市民の怒りを増幅させ、多い時には参加人数が100万人規模のデモになりました。
ただ警察や治安部隊の武器が、警棒やスタングレネード、催涙ガス、発煙弾に対して、抗議者側の武器は石やレンガ、棒、火炎瓶などでの抵抗でしたので、12/1/2013に初めて公共の建物が抗議者達に占拠されましたが、数が圧倒していたことが決め手であり、"軍人らが武力行使"という表現から既に違和感を感じます。
マイダン革命で死傷者を多数出し、革命の決定的転機となった2/18/2014にしても、警察は催涙ガスと閃光手榴弾を使用して、粗末な武器と爆発物で戦ったデモ参加者数千人を撃退したり、デモ参加者の群衆に向かって無差別に実弾でも発砲しており、デモ参加者は棒、石、金属の棒、花火、火炎瓶などの爆発物で反撃していますが、"軍人らが武力行使"というニュアンスとは程遠いものでした。
『スウェーデン外相のカールビルトとヌーランドは、ウクライナ政府の転覆にかかわって連携』
米国のヌーランドが政権転覆を虎視眈々と狙っていたのは、おそらく事実でしょう。ただしマイダンの民衆による抗議デモを自ら起こさせたという様な証拠はなく、むしろ便乗したとみるべきで、アメリカがデモ参加者にお金をばら撒き、デモを増幅させたという表現の方が適切です。(同様のことをロシアもアンチマイダンでは、人数があまり集まらずお金をばら撒き、デモ参加者を募っていました。)
『ブダペスト覚書の2項の、領土的一体性と政治的独立を犯したのは米国』
ブダペスト覚書は核兵器の放棄と引き換えに、ウクライナを尊重/保護/支援する約束であり、ウクライナ中立化とか国家主権など無関係の話です。以下wikiより抜粋:
1. ベラルーシ、カザフスタン、ウクライナの独立と主権と既存の国境を尊重する
2. ベラルーシ、カザフスタン、ウクライナに対する脅威や武力行使を控える
3. ベラルーシ、カザフスタン、ウクライナに政治的影響を与える目的で、経済的圧力をかけることは控える
4. 「仮にベラルーシ/カザフスタン/ウクライナが侵略の犠牲者、または核兵器が使用される侵略脅威の対象になってしまう」場合、ベラルーシ、カザフスタン、ウクライナに支援を差し伸べるため即座に国連安全保障理事会の行動を依頼する
5. ベラルーシ、カザフスタン、ウクライナに対する核兵器の使用を控える
これを見れば一目で分かるように、2003年のトューズラ島侵略画策、2005年のロシア・ガス紛争、2014年のクリミア併合と、正にロシアは違反しまくっていたわけで、それを差し置いて強引に批判の矛先を変えるために、お粗末な主張をされているのは明白です。
参考ソース:
【オバマ大統領のマイダン革命での発言】
”マイダンクーデターは自然発生的なデモではなく、米英によるもの。”、”米国オバマ大統領が、CNNのインタビューで工作を行ったことを告白”
オバマ氏はインタビューで以下の発言をしました。
『And since Mr. Putin made this decision around Crimea and Ukraine — not because of some grand strategy, but essentially because he was caught off-balance by the protests in the Maidan and Yanukovych then fleeing after we had brokered a deal to transition power in Ukraine』
これを「deals(工作活動)を行った」と強引に読み替えて、奇妙な主張をしていた人がいましたが、英語もマイダン革命も残念な理解力しかない方であるのは明白でした。
太字の部分を正しく訳すなら、「私たちがウクライナの政権移行に関する協定を仲介した後」となり、「政権移行に関する協定」とは「Agreement on settlement of political crisis in Ukraine」を指していると思われます。
このAgreementがEU主導の調停努力であるが故に、こういう表現だったというだけの話を、無知さからあたかも”米国の工作があった根拠”として、曲解していた事例でした。
参考ソース:
【マイダン革命について】
"アメリカがマイダン革命という軍事クーデターを起こした"
マイダン革命自体は、一応民衆デモが発端です。確かにアメリカはお金でデモ参加者を募っており、デモの規模を増幅させたという表現なら、その通りです。
また米国CIA がアゾフなど過激派ライトセクターへ、資金援助や訓練などをしていた痕跡もあります。但しそれはマイダン革命自体を起こさせる為というより、その後に起きる展開に備えさせる為と見ることもできます。厳密にはおそらく、マイダン革命での欧州主導の「Agreement on settlement of political crisis in Ukraine」の政権移行時から活躍したでしょう。
そして実際、マイダン革命直後にはロシアによるクリミア占領が起き、ロシア支援の反政府テロ武装組織によるドンバス紛争も立て続けに起き、この過激化右派はウクライナの国防戦で活躍しましたが、この流れで”アメリカが軍事クーデターを起こした”と主張するには、かなり無理があります。むしろそういう非難を浴びないために、あくまでも民衆によるデモである体を保つのにアメリカは注力していたからです。
一方でアンチマイダンのデモを経て、反政府テロ武装組織がドンバスの庁舎を武力占拠した後、勝手に独立宣言した行為などは、正に軍事クーデターそのものです。そしてこのアンチマイダンデモでは参加者もあまり集まらず、ロシアがお金をばら撒いて募っていたことや、反政府テロ武装組織へ資金や武器、人員の支援までしていた証拠も出ているので、ロシアにアメリカを非難できる立場など全くないのは明白です。
参考ソース:
これまで歴史からも米露が清廉潔白に動いたためしは無く、世界最悪のマフィア米と、世界最悪のヤクザ露との間で、ウクライナからすれば究極の選択として米を選ぶしかなかったとも言えますが、被害者ウクライナの立場を尊重して考えるなら、この戦争において露を批判すべき要素は、米批判要素の比ではないのも明らかです。
”マイダン革命をアメリカが起こしたのが、今の戦争の原因”
上述の通り、”アメリカがマイダン革命を起こした”という主張が、既に偽/誤情報でしかありませんが、2014年に親欧米政権が誕生したとて、ロシアがいきなりクリミアを占領していい理屈にもなり得ません。また少なくとも2003年の時点でロシアは、トューズラ島(クリミア半島のある都市)の侵略を画策しており、かねてよりロシアに侵略構想があったのも自明です。
【マイダン革命での最初の射撃手について】
"マイダン革命で射撃手がマイダン派を殺して、政府に責任を押し付けた"
平和的マイダンデモから、暴力闘争に本格シフトしたのは、射撃手がマイダンデモ参加者と警備側へ発砲し、両側で死者を出したのがきっかけでしたので、確かにどの勢力によるものだったのかは、気になる部分です。松里公孝氏の著者を根拠に、”反ヤヌコビッチ政権派の仕業だった”と、主張をされる方が居ましたが、著書にはこんな記述があるそうです。
『虐殺から間もなく、当時のエストニア外相とEU外務上級代表の電話会話がリークされた。エストニア外相は、デモ隊の犠牲者と警官の犠牲者から摘出された弾丸が同一であると検視医から聞いた、だから新政権は調査をまじめにしないのではないか、やったのはヤヌコヴィッチではなく、今新政権を構成している人々ではないかと話したのである。』
これはWikiにもある話で、リークされた会話の発言内容自体は、当時のエストニア外相本人も認めていますが、同時に外相自身は、オルガという医師から聞いた話をただ電話で話しただけで、反政府勢力が狙撃に関与しているとまでは主張していないと発言しており、エストニア政府も同見解の声明を出しています。これらの話の1次ソースは以下↓
勿論これだけなら、外相の会話から勝手に狙撃犯勢力の証拠にされては堪らんと、リスクヘッジをしたとも考えられます。
しかしオルガ医師自身も、「私自身、抗議活動参加者しか見ていませんでした。軍関係者がどのような種類の傷を負ったのかは知りません。私はそれらの人々にアクセスすることはできません。」と語り、警察官や抗議活動参加者が、同様の手口で殺害されたことを、エストニア外相には伝えていないと語っています。
更に「被害者を治療する際に傷を見ただけで、武器の種類を判断できる人は誰もいない。国際的な専門家やウクライナの捜査官が、どのような種類の武器、誰が殺害に関与し、どのように行われたのかを判断してくれることを願っている」と語り、完全な法医学的犯罪捜査を求めています。
1次ソースは以下↓:
つまりマイダン虐殺の背後に反ヤヌコビッチ政府派の人物がいるという主張は、エストニア外相もオルガ医師も共に否定しており、既に松里氏の主張とは矛盾しています。しかもオリガ医師の説明には合理性も感じられ、そもそも検視医ですら無い。
おそらく可能性レベルでの何らかの会話があったにせよ、医師自体が完全な法医学的犯罪捜査を求めていた事からも、確証的発言ができる立場ですら無かったとわかります。
つまりこの医師の発言の精査は必須であり、松里氏は著者でその事に触れていなければ、確定的証拠もなく単なる憶測の域でしかないと言えます。(実際の著書が手元にあるわけでもなく、読むこともできないので、これについて私は精査できませんが。)
医師自体は個人特定も出来ており、松里氏は直接本人へインタビューでもされて、確認を取られたのか?そもそも検視医とは、誰の事だろう?と、自分的には疑問だらけです。
先に触れた通りマイダン革命は、Wikiにもかなり詳細が時系列で記述されていますが、確たる証拠も出ていない上、最初の狙撃がロシア、ウクライナの反ヤヌコヴィッチ派、親ヤヌコヴィッチ派、アメリカのうち、どの勢力からであっても成立する話であり、実際に色んな説が、証拠/根拠と共に記されており、今でも断定できるような次元の話では到底ないという理解です。
メディアリテラシーの観点から、松里氏がどんな主張をされている方なのかを確認する為、手っ取り早く本以外で彼自身が発言されている動画を、少し観てみました。↓
松里公孝氏が発言している動画(松里公孝氏の主張の一部を『』内で記載):
『元々ドンバスの分離運動で、ロシア回帰支持は少なかった』
当時の世論調査でもそう見えますので、この点は同意できます。
『ドンバスの人民共和国運動に関しては、彼らが勝手にやった事』
”プーチンは左派嫌いで主導者とのホットラインも無く、最初は曖昧なスタンスだった。”とも主張されていましたが、アンチマイダンのデモで、ロシアはお金をばら撒き、人員も送っていたので、この主張には既に矛盾があります。
『ミンスク合意でドンバスはウクライナに帰属すべきだというプーチンの主張は、偽善では無くウクライナのNATO加盟を恐れての事』
「クリミアとドンバスが仮にロシアと併合すれば、500〜600万票がウクライナ選挙から外れ、今後の選挙時には、毎回親欧米NATO加盟派の大統領しか当選しない」という根拠からの主張でしたが、今の戦争を経れば、遥かに次元の違う嫌露感情を生み、NATO加入意識も確実に進むわけで、これも矛盾しています。
『プーチンは自力生存能力がなければ、助けないポリシー』
そもそも“依頼されて、(仕方なく)助けた”という発想が、ロシアのプロパガンダの請け売りにしか感じませんし、プーチンの本心や意向を勝手に推測されていますが、それが正しい確証も皆無の話です。
『社会革命を辞め、急進派トップを入れ替え、ミンスク合意に従う事が条件』
2014年8月からロシアが分離派を本格支援開始した際の主張ですが、単にロシアの傀儡政権完成へのプロセスだった、という解釈も勿論可能であり、そういう視点からも十分精査されたのかも不明です。
『2015年くらいから露のお金が入り、生活は好転』
ロシアは住民の取り込み工作が必要なので当然の流れですが、このネタを根拠にまるでロシア関与は歓迎されていたかのような印象操作にすら感じます。
『ウクライナによる経済封鎖で、2018年頃からドニエツクは経済危機』
分断が一層進んだという事だと思いますが、戦争が泥沼化して行けば経済危機にも当然なります。私がかねてより疑問を持っていたのが、ドンバスの“分離主義派”が、一定数いたしとしても、武力により独立を勝ち取りたいと本気で考えた市民が、一体どれだけいたのか?という事です。
本当に自分の住む街を戦場にしてまでも、それを成し遂げたいのか?そもそも軍事力で独立するには、当然ロシア支援は不可欠なのに、ロシア回帰は望まないとなると、色々とメイクセンスしません。
松里氏の表現で言う、一部の急進派が勝手に武力クーデターを起こしたのなら、そもそも民意でもなく、市民はその急進派(反政府テロ武装組織)により、勝手に実効支配された事になります。そして事実8年も苦しめられ、9年目から惨状が更に激化しました。
そういう構図に自分には見えているのですが、彼の動画での主張からは、そういうニュアンスは一切感じませんでした。
加えてこの反政府テロ武装組織は、ロシアが資金も人員も支援していたものです。色々な状況証拠から見ても、ロシアの関与は明らかに見えます。そうすると何時から、どういう意図で?という考察も重要になる筈で、ロシアによるウクライナ侵略について時系列でロシアの行動を並べると、ドンバス紛争自体がウクライナの政情不安定化を狙った、ロシアによる計画的侵略プロセスの一環として見る方が、遥かに合理的と言えます。
この手の国際政治などの話題を扱った著書では、まともな著書であれば、通常は情報ソースも追記されているでしょうから、確認すべき情報を知る上でショートカットになることもありますが、著者や編集者の思惑、主張や偏見が100%確実に入るため、メディアリテラシー的な観点からすると、純粋な情報を得るには、相応のスキルや労力が必要となります。
本の鵜呑みは絶対に厳禁で、著者の政治思想も十分理解した上で、予めバイアスも想定しながら読む必要があり、一次ソースまできちんと自分で精査して、初めて安全に消化可能な情報と言えます。
松里公孝氏の動画からある程度彼のスタンスは透けて見えましたが、”彼は親露派ではない”という声も一部から聞いたので、余計に自分的にはそれに違和感を感じたため、更に少しだけ掘ってみました。
以下は彼の書いたエッセイの様ですが、特にウクライナ警察の賄賂慣習の実体験など、ネガティブな側面に触れており、親露とは言わないまでも、親ウクライナでもなさそうであることは、容易に想像できました。
【ロシア語話者への弾圧について】
“ウクライナ政府の命令で、いきなり「ロシア語は喋るな」などと弾圧をした。”
ロシアがいきなりクリミアを占領して、戦争に突入したわけですが、戦争を仕掛けてきた敵国の言語を公用語から外したウクライナ政権の措置は、至極当然の話です。仮に同じ状況下なら、同様の措置を取らない国などまず存在しないでしょう。
とはいえ、第一公用語から外したからといって、その言語で話すことを禁じたわけでもなく、これを弾圧と非難すること自体、ナンセンスなプロパガンダと言えます。
【ロシアが戦争を始めた原因について】
“ロシアが戦争を始めなければならない程、アメリカが追い詰めた”というネタもよく見かけましたが、具体的にどう追い詰めたという根拠がありません。1万歩譲って仮にそうなら、ロシアがアメリカに戦争を仕掛けるのが筋であり、ウクライナには何の落ち度もない話です。
更に勝手に脅威を抱いたからと、いきなり他国を侵略しても良いという理屈は、そもそも通りません。中国や北朝鮮がある日いきなり、日本に脅威を感じたからと沖縄を占領しても、仕方ないとは捉えないのと同様の話です。
また私見にはなりますが、ロシアが戦争を始めた原因は、いつものエネルギー利権争いが根底にあったように感じています。
【ワルシャワ条約機構について】
”ワルシャワ条約機構が消え、脅威はなくなった筈だ”
核を落とせば一発で終わらせられると恫喝するロシアに、“脅威がない”は完全な虚偽とも言えます。しかもこの戦争でも、侵略行為を公然と継続できている事実を、都合よくスルーしています。
【ウクライナ領空でNATO軍機が演習したら、ロシアは脅威】
2014年にロシアがクリミア占領の暴挙に出て、一気にウクライナロシア戦争に突入しましたが、それまでウクライナはNATO加盟に慎重路線で、そんな事態にはなっておらず、今後はそういう事態に展開したとしても、完全に自業自得です。
【ブチャの虐殺について】
”ブチャの虐殺はウクライナの犯行”
“ブチャ市長は明るい声でロシア軍撤退を歓迎するビデオを公開したが、疑惑の「残虐行為」には触れていない。”
市長のフェドルク氏は3月7日のAP通信のインタビューで、ブチャで積み重なった死体について、次のように語っています。「昼も夜も重火器による砲撃が止まらないため、遺体を収容することさえできません。 犬が街路で遺体を引き裂いており悪夢だ。」
更にフェドルク氏は3月28日、イタリア通信社アドクロノスのインタビューでも、ロシア軍が撤退する前に暴力について公にコメントし、ブチャでの殺人と強姦を非難していました。
”ウクライナ軍はロシア軍の撤退に気付かず、市内への無差別の砲撃を続けた。”
ウクライナの法医学者ウラジスラフ・ピロフスキー氏は、2022年4月にガーディアン紙に以下のように語っています。「数十人のブチャ民間人がロシアの大砲からの金属の破片によって死亡した。」、「私たちは切断された(傷ついた)遺体をたくさん見てた。」「彼らの多くは後ろ手に縛られ、後頭部を銃で撃たれていた。」 「被害者の背中に6~8個の穴を開けるなど、自動発砲による事件もあった。犠牲者の体内にクラスター爆弾の要素が埋め込まれたケースがいくつかあった。」またそれ以外の証言からも、ロシアの砲撃であったことが指摘されています。
NYTは、ヤブランスカ通り沿いの犠牲者のうち36人を特定しており、8か月にわたる目視調査の結果、ヤブランスカ通り沿いでの数十人虐殺の犯人は、アルチョム・ゴロディロフ中佐率いる第234航空強襲連隊のロシア空挺部隊であると結論づけています。
証拠には、ブチャ生存者による写真やビデオ、監視カメラの映像、衛星映像、殺害された被害者の電話から加害者がロシアに掛けた通話の詳細が含まれています。
”ウクライナ当局は、民間人の死亡日と死因を明らかにする詳細で、検証された法医学報告書を提供していない。”
犠牲者の詳細が公表されていないというのはまったくの虚偽で、2022年12月、ロシア兵士によって盗まれた民間機器のビデオと電話のメタデータに基づく調査により、ブチャで数十人の民間人が死亡したことに対する、ロシアの連隊とその指揮官の責任が立証されています。
参考ソース:
“衛星写真の分析(ブチャの死体遺棄は露軍撤退前)は嘘”、”アメリカ国防総省の関係者らから聞いたが、英米は衛星を使えなかった。”
このネタを主張する人に、その“アメリカ国防省関係者”とやらの公開発言URLを要求したところ、どこの誰かすらも一切開示できないとのことでしたので、そもそも話の信憑性を精査する術もありませんでしたが、NYTも下記URLの組織も、それこそロシアですら、“衛星を使えなかった”という主張ではなく、むしろ入手できた衛星画像による分析結果についての議論だったわけで、仮に“衛星を使えなかった”云々が事実なら、ロシアも既に虚偽の主張をしていた事になると指摘したら、おとなしく黙りました。
参考ソース:
【ブチャの出来事に関する、国連安保理の動き】
”ブチャの出来事に関する、安保理会合招集を拒否”
安保理の会議が翌日に予定されていたから、前日のそれは否定しただけのことでしたが、ロシア報道官発言の鵜呑みから、こうした印象操作にまんまと嵌められた人が何人もいました。
因みにこのネタは田中宇氏も、ご自身のサイトで以下のように主張されていました。『ロシアは国連安保理でブチャの事態に関する話し合いを、緊急に持つべきだと繰り返し提案した。だが、安保理の議長をつとめる英国は、ロシアの提案を却下した』
更にその文面の後には、『その後も、国連が第三者組織を作ってブチャの虐殺現場を、現地調査すべきだというロシアの提案は却下され続けている』、と今度は会議ではなく、”現地調査そのものを、さも却下され続けた”かのようなミスリードまで意図的に誘っていました。
田中宇氏のサイトは一見、情報メディアのような体裁になっていますが、少しでもまともに精査すると、根拠希薄でもご本人が単に信じることを好き勝手に書いているだけのものですので、質の悪いプロパガンダ・サイトでしかないという印象です。いつか元気があれば、どれくらいにお粗末なものか、取り上げてみたいと思います。
補足
ウクライナ戦争に関するプロパガンダで自分が検証したものはもっと無数にあるのですが、きりもないのでよく目にしたものや、割と最近でも未だにこんな主張をしている方も居るという意味から、少し掻い摘んで取り上げてみました。
親露/反米/反ウクライナの方々は、今の戦争においても”ロシアは民間人の虐殺など行っていない”と、頑なに信じておられる人までおられ、いつも驚かされるのと同時に、プロパガンダの怖さを心底感じています。
ウクライナはドンバス紛争時でのロシアによるプロパガンダ情報戦を教訓に、国家レベルでプロパガンダ対策に取り組んでいることを、以前にこのブログでも取り上げましたが、日本もそういう動きが必要不可欠な時代になってきたと痛感しています。できるだけ政府以外の特に非営利でも、そういった動きが出てくるのを強く切望するばかりです。
最近存在を知ったのですが、Japan Fact-check Center(JFC)という非営利ファクトチェックサイトも出来たようです。このサイト自体を自分は精査はしていませんが、こういう動きが日本でも加速して、国民全体でメディアリテラシーを高める方向へ向かって欲しいものです。