プロパガンダを見破る方法(初級編2: ウクライナ戦争関連動画)

動画である必要のない内容をわざわざ動画にしていれば、プロパガンダ動画である可能性が極めて高く、情報ソースも開示していない様な動画は、99%それ系と言えます。例えるなら根拠となったデータを一切開示もせず、誰かが好きな様に話すだけの“論文発表”の様なものです。それは“論文発表”と称した、単なる「個人的思いを語る会」であり、純粋な情報を得るには、不適切かつ非効率この上ないです。

動画である必要性のある内容とは?

逆に動画である必要性のある内容とは、何かの監視カメラ映像とか、誰かが状況をスマホで撮影した動画の様に、映像として見る意味がむしろ高いものです。

例えば警察のBody Cam や車のDash Cam、通りすがりの人にスマホ撮影された映像は、何らかの事件や犯罪における状況把握には、有効な事も多々あります。或いは選挙の開票作業を録画した映像なども、状況把握には有効です。要するに文字で把握するより、映像での証拠が求められる場合です。

但し例えば、”不正選挙が行われている〜“という動画などは、その映像にある行為が、そもそも本当に不正なのか?という観点まで、きちんと精査/確認する必要があります。実際に単なる通常の開票作業シーンにも関わらず、素人が”不正選挙の証拠だ〜“と、好き勝手にテロップも付けて、拡散されたものが多いです。(というか私はそれ以外のパターンを、未だ見た事はありません。)

ドキュメンタリーと称したものに出てくるインタビュー動画も、「当人が本当にそういう発言をした」という確認目的ではかなり有効です。但し発言者が実際にどういう状況に置かれた上で発言したのか、どういう政治思想や背後にどういう支援組織を持つ何者なのか?などを、きちんと精査する必要もあるわけですが、現実に把握が難しい事も多いので、むしろ要注意と言えます。

また発言が都合よく切り取られて、印象操作に使われているケースもあるので、公式な場での何かのスピーチであれば、恐らくノーカット映像も残っている為、Rawのフッテージを出来るだけ探して確認する事が重要です。

プロパガンダ動画例1:

Anne-Laure Bonnel(アンヌ=ロール・ボネル)氏の 『ドンバス 2016』

概要欄の解説には 『アンヌ=ロール・ボネルはこの映画で、そのおびただしい数の事実と証言をもとに、アメリカやNATO西ヨーロッパ諸国にとって「都合の悪い真実」と「残虐な不条理」を、静謐かつ抑制されたトーンで貫かれた印象的な映像で、見事にかつ衝撃的に暴いて行きます。』とあります。

しかしこの動画には色々と問題があり、まず一番致命的なのは、ドンバス住民へインタービューをしていたのが、実は全て武装分離主義勢力側の役人だったという点です。

武装分離主義勢力とは、武力クーデターを起こして庁舎などを不法占拠し、後に国として独立宣言した、いわば反政府テロ組織です。ロシアが裏で資金や武器や戦闘員を支援して、傀儡政権を擁立した事も既に判明しています。

ル・モンドというフランスの新聞の特派員が、彼女の映画で証人へ質問をしているのは、ジャーナリストではなく分離主義者の役人であった事を指摘しています。要するにその状況下でなら、武装分離主義勢力に都合の良い証言以外、出てくる事はまず無いでしょう。

また彼女以外で、ほとんどのジャーナリストは、ドネツクで働くことができなくなったそうです。つまりロシア支配地域側では、武装分離主義勢力(実質ロシア)にべったりのジャーナリスト以外、立ち入りも禁止されていたということです。

ル・モンドというフランスの新聞特派員の指摘ツイート >>

因みにル・モンド紙はwikiに、『一般大衆に気づかれないように反米派および旧ソビエトに有利な偽情報をフランスのメディアに広めるための、KGBの重要な情報操作メディアだった』と記載もある様に、本来親露スタンスのメディアであり、そのモスクワ特派員の指摘であった事もポイントでしょう。

なお彼以外にもその場にいた他の数人のジャーナリストからも、彼女は同様の批判を受けたそうです。そして彼女がロシア支配地域だけを撮影したのも、本人の認めるところです。

また冒頭ではポロシェンコ元大統領が、ドンバスの東部住民に対して「仕事もできなくなり、年金も貰えなくなる、子供は学校に行けず洞窟で暮らすようになる」と発言しているシーンから始まりますが、これがもう切り取りの典型的な印象操作です。

なぜそんな発言をしているのか?という一番重要なポイントが抜け落ちているわけですが、マイダン革命で親欧米政権誕生の瞬間に、ロシアがそれに反発してクリミアを占領し、侵略戦争を開始していた状況下で、謂わば敵国へ向けてのスピーチでした。また勝手に州独立を宣言し、ウクライナへの税収も絶っておきながら、年金は支払い続けろというのも、おかしな理屈です。ただ実際にはこの武装分離主義勢力は、市民への行政サービスを提供しておらず、紛争時もロシア支配地域のドンバス住民の毎月延べ100万人以上が、年金受け取りや親族との面会などのため、(勝手に引かれた)境界線を越えて、ウクライナ支配地域側へ行き来していたようです。

ウクライナ紛争 (2014年-)のWiki >>

ロシアによるクリミア併合後、上述のロシア支援の武装分離主義勢力によるウクライナ東部の不法統治に、ただ応戦していたウクライナ国軍を、「自国民を迫害し、殺戮と虐殺を繰り返してきた」と非難しているような話です。

実際には武装グループが住宅地の奥深くに潜入しており、地元住民を危険にさらしていたことや、分離主義支配地域に住む人々が、人権侵害に対して特に脆弱で、殺害、恣意的隔離拘禁、拷問および虐待を受けていたことなどが、国連レポートで報告されています。

ドンバス紛争の国連レポート >>

要するに今のロシアがウクライナで正にこれまで行っていた非道を、そのままこの武装グループが過去にドンバスで行っていたということです。今の戦争と同じく、この武装グループは民間/公共施設を軍事拠点にしていた為、ウクライナ軍の抗戦過程で市民からも犠牲者が出ていたのを、ロシアがジェノサイドと呼んでいたということでしょう。

アンヌ=ロール・ボネル氏について:

彼女が拡めた “ドンバスでロシア語話者が、ウクライナ政府により13,000人も殺された”というニュアンスの誤情報は、ロシアが主張するジェノサイドの根拠になり、ロシア発のこの手のネタと彼女の主張は、かなり近いという事実があり、彼女の犯した大きな罪だと言えます。(事実としては、8年間での両軍の全死者数であり、民間人はおよそ3,000人だった。)

彼女はロシアメディアのスプートニクから連絡を受けて、今の戦争が始まる数日前にドンバス入りして撮影し、新しく公開したものはプロパガンダ映画でしかないと、勤務先の学長に見做され解雇されています。

動画である必要性の無い内容とは?

内容と直接関係のないテキストや音楽:

例えば映像と直接関係のないキャプション/テロップや音楽が挿入されている場合など、いかにもという感じの雰囲気映像や音楽が使われていれば正にそれです。勿論、大体の動画にはキャプション/テロップは入ると思いますが、映像との関係性を一歩退いて見て考える事で、割と簡単に答えは出ます。

プロパガンダ動画の簡易判断基準:

  • テロップの内容が、実際に直接映された映像と関係がない。(所謂イメージ映像)
  • ナレーションとそのキャプションがあるが、声の主の人物映像はそこに無い。

プロパガンダ動画例2:

『ルガンスク・ルベジノエのバイオラボ、大手製薬会社がウクライナ人を実験動物として使っていた場所 2023/01/19』

廃墟と化したラボで誰かが好きなように語り、テロップを付けただけのもので、情報として当てになりそうな内容は、せいぜい米の大手製薬会社出資のラボで、色んな治験をやっていたであろう、という程度です。実際に主張している内容で、動画になっている必要性のあるものはゼロです。それをわざわざ動画にしている時点から、プロパガンダ動画である可能性を真っ先に疑うべきなのです。

動画で何度も“見つかった資料によると”、の様に匂わせつつも、そのソースへのリンクが一切ありません。(因みに英語バージョンでも同じです。)

別に大手製薬会社は色々とクロだと思っていますし、米より安く治験環境が手に入るので活用している、というストーリーは容易に想像もできますが、最低でも動画の根拠にしている資料を自分で確認もせず鵜呑みするべきではありません。

ウクライナの大学教授と学生によるNGOが検証して、要するにフェイクニュースだと、根拠付きで解説されていますので、こちらもご参考に。

ウクライナの大学教授と学生によるNGOの検証サイト >>

何かを解説しているだけの動画:

何か情報を得るのに、誰かが効率良く説明してくれている解説動画をよく目にしますが、これが政治/経済の話題であれば、ほぼ99%はプロパガンダ目的と考える方が賢明です。自ら調べる時間がショートカットできて便利と思われがちですが、残念ながら誰かの思惑にまんまと嵌められている可能性の方が高いです。

本来はテキストベースの何らかの資料があるものを、わざわざ誰かが口頭で“解説”しているタイプのものほど、よりリスクも高いのです。なぜなら動画には、何らかの編集者の意図が確実に入っているからです。それは即ち、イデオロギー的に右であれ左であれ、わざわざ動画を用意している=視聴者に伝え、共感を得て導きたい方向があるという事です。そこから印象操作や洗脳に展開するのが、正にプロパガンダ動画です。

純粋な情報を得たければ、例え面倒でもソースの資料を自分で追って、実際に確認する以外に、今の時代で安全に情報を消化できる術は残念ながら無いという現実を、肝に銘じておくべきです。

プロパガンダ動画例3:

篠原常一郎氏の 『特集-1 ウクライナ紛争「原因は?」「来年,終わるのか?」「8年つづく紛争」の実状と見通し,影響』

概要欄の解説 『ウクライナ紛争は何処から始まり,何処へ向かうのか?』とあり、手製のフリップと共に解説されているのですが、軽く確認しただけでも、やはり印象操作/プロパガンダそのものと瞬時に分かる、お粗末なものでした。

因みに通常のプロパガンダは事実も織り交ぜ信憑性を高めつつ、印象操作から意図した方向へ洗脳する行為で、この動画でも確かに事実も入れて語っておられます。但し都合の悪い事実は綺麗にスルーされており、そこを明確にするだけでも、これがどうしてプロパガンダ動画であるのか、誰にでも気付けるかと思います。

ロシアによるウクライナ侵略は、少なくとも2003年のトューズラ島(クリミア半島のある都市)から始まっていますが、この動画ではそこに全く触れていません。

ウクライナは米英露による安全保障と引換えに、露へ核をわざわざ渡して非核化した際に、ブタペスト覚書という条約を露と交わしていました。しかしオレンジ革命で親欧米政権誕生後、ロシア・ウクライナガス紛争が勃発し、露は既にこの条約を破った上、更にマイダン革命後のクリミア占領で、完全に条約違反を犯していますが、この事実にも一切触れられていません。

親露派ヤヌコビッチには少し触れていますが、彼は安価な天然ガスの対価に、クリミアへロシア軍を常駐させるという取引を、プーチンとしていた事はスルーされています。(これがクリミア併合を、あそこまで容易にした要因と推測できます。)

経済ではEU加盟を目指しつつも、プーチンによる脅しで180°方向転換したのが、国内の親欧米派の怒りを買い、マイダンデモの引き金になりました。米が資金援助してデモ扇動したのは事実ですが、デモ熱を増幅させたという表現が適切でしょう。

マイダンデモから暴徒化へのきっかけとなる、市民と警察への発砲をどの勢力が行ったのかは、諸説もあり不明のままです。

ヤヌコビッチ失脚当時、当然ですが警察隊、治安部隊、軍全て、基本的に彼の支配下であり、直接それらを米が何かコントロールして、武力で失脚させたわけでもなく、民意の大きさと議会決定が決定打でした。

CIAもアゾフを恐らく訓練までしていましたが、それは後述のアンチマイダン以降で活躍した話です。

ヤヌコビッチが失踪し暫定政権が誕生したのは2/23/2014で、同日からクリミア併合へ向けたロシアの動きも始まり、独立要求する数百人のロシアの御用デモ隊がクリミア議会を占拠したのが2/25。翌日には既にロシア軍が直接クリミアの主要な建物や空港を占拠しており、ロシアによるウクライナ侵略行為は、この時点でも既に明確でした。

つまり動画のフリップにある時系列が、既におかしいという事です。このクリミア侵略を受けて、ウクライナが対露敵対姿勢になるのは、至極当然の事です。ところがこの動画では、まるでロシア系が不当な弾圧でもされて紛争が起き、クリミア併合に至ったかの様なストーリーに仕立てられており、典型的な印象操作です。

ドンバス紛争も、ロシアが主にお金で雇ったデモ参加者によるアンチマイダン・デモから程なくして、独立分離主義を名乗る武装勢力が庁舎を占拠した、軍事クーデターが直接のトリガーでした。

デモ参加者が小規模であった事、武装勢力への参加者数や紛争前後の世論調査からも、自分の住む街を戦場にしてでも、力付くでも州独立を果たしたいと考えるドンバス市民は、極めて少数であったのも明白です。

そしてロシアが裏で支援する反政府の武装テロ組織による武力侵略に対し、ウクライナ軍が防戦していたという事実には全く触れられていません。(上述のアンヌ=ロール・ボネル氏の動画解説項も参照。)

ミンクスの停戦合意は、両側とも破り、お互いに指を差し合っていた事実にも、この動画は触れていませんが、これも今の戦争での人道回廊合意にしても、何度も履行されなかった事からも、容易に想像できる事です。

オーストラリアの保守メディアの過去記事 >>

ウクライナにロシア系と言われる人が多く居る理由も、ソ連時代のジェノサイドがもろに関係していた事実には、全く触れていません。

オデッサの惨劇にしても、完全にライトセクターによる虐殺として語っていますが、出来事の正確な順序に関する報告は、偽情報を含め、さまざまなソースによって違います。

オデッサの惨劇のWiki >>

「親マイダン派は、親ロシア派グループによって発砲された後、火炎瓶を建物に投げ込み始めた」、「双方が火炎瓶を互いに投げ合っていた」、「火災は 3 階で建物の内側から火炎瓶が閉じられた窓に向けて投げられたときに発生」、「ウクライナの団結活動家が屋外で持っていた数本の燃える瓶が、正面玄関に投げ込まれた」、「屋上にいた者が下の群衆に向かって発砲し、上から火炎瓶を投げているときに誤って建物に火をつけた」など。

要するに直接の火元がどれかは不明で、多くの人が 1 階の他の出口から建物を出ず、高層階に逃げて死亡。消防隊現着に最大40分も掛かった事、地元警察の介入の遅さもあった、という話しか、断言できる事はありません。

幾らでもこういった指摘すべき事を、完全にスルーしてこの動画では語られていますが、正直全てを見る元気はありませんでしたが、プロパガンダ証明をするには、十分ではないでしょうか?

篠原常一郎氏について:

Wikiによると、軍事評論家として、主に旧共産圏諸国の軍事事情や兵器技術の解説記事を執筆されている方で、元日本共産党専従職員だそうです。在日ロシア大使館にも招待されるくらい、ロシアべったりの方であるのはよく分かりますが、仕事種的にも親露でないと成立しない方のようです。

まとめ

ここで取り上げた動画は、これまでのFacebook上での何らかのやりとりで、親露/反米/反ウクライナ派の方が何かの証拠/根拠のおつもりで挙げて来られた為に、たまたま自分も視聴したものですが、勿論そのごく一部です。

私は予め色々と調べていたので既に前提知識があった為、瞬時にプロパガンダを見抜けましたが、仮に前提知識が無かったとしても、鵜呑みせずきちんと事実関係を自分で調べさえすれば、誰にでも気付ける筈です。

また動画作成者の政治思想や所属組織くらいは最初に把握しておく事が、メディアリテラシーの第一歩です。動画を見ている方が例え中立のつもりでも、バイアスしかないネタを何か有益な情報のつもりで吸収/消化していれば、立派に偏った思考に陥って行く可能性があります。

勿論、全ての動画を視聴する度に、ここで取り上げたような情報の精査プロセスにそこまで時間や労力を掛けられる方は稀でしょう。私の場合は、相手が特に"ジャーナリスト"という肩書きであるほど、自分なりのパスラインを設けています。

具体的には一度発信されている何かを精査をしてみて、事実の歪曲や印象操作がどの程度含まれているか?を確認し、悪質であると判断すれば、基本的にはその人の名の付いた発信ネタは以後スルーするようにしています。つまりチャンスは1度きりで、失格された方には、ブラックリスト入りして貰うイメージです。

私からして情報を得る目的では視聴する価値を全く感じない(=プロパガンダ意図が露骨/誤情報を平気で載せる)方々のリストも増えており、随時アップデートしていくつもりです。(動画のブラックリスト例:馬渕睦夫氏、篠原常一郎氏、アンヌ・ロール・ボネル氏、アリーナ・リップ氏、オリバー・ストーン氏、及川幸久氏)(テキストのブラックリスト例:田中宇氏、西森マリー氏)

繰り返しますが動画である必要性の無い内容を理解/取得するのに、動画で視聴しようとする行為から、リスクしかありません。メディアリテラシーが低い方であるほど、絶対に避けるべきです。

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