アメリカのネットの中立性 ③
(U.S. FrontLine誌 2015年04月20日号 掲載分、一部加筆・編集あり)
前2回で、「ネットの中立性問題」について触れました。最終的には、アメリカ連邦通信委員会(FCC)か、インターネットのブロードバンドを電話などと同じ「公共サービス」として「タイトルⅡ」という区分に規定することで、今のところは通信の中立性を保てそうですが、今後、政権が変われば、また白紙に戻される可能性が高く、予断は禁物でした。
補足: 約2年半後の今はトランプ政権になりましたが、残念ながら危惧した通りに白紙撤回され、Net Neutralityは失われてしまいました。
FCCサイトをダウンさせたバイラル
ところで、この問題が上述の一時的決着に至る間にも、周りでは面白いことが起きていました。例えばジョン・オリバーというコメディアンが、「Last Week Tonight」というHBOの番組プログラムでわずか13分間、この「ネットの中立性」という話題について、ユーモアをたっぷり交えて解説したところ、後にYouTubeなどでも公開され、少なくともその時点で770万回以上視聴されるなど爆発的に広まり、バイラル(口コミ)が起きました。
その結果FCCのサイトへ、ネットの中立性を支持するユーザーの書き込みが4万5000件を超えるなど、アクセスが殺到し、サイトをダウンさせるという事態にまでなりました。これらはオリバー氏の風刺がとても愉快でいて、的を射ていたから起きたと言えます。
その動画はこちらで視聴できます。Net Neutrality: Last Week Tonight with John Oliver (HBO)
番組内での風刺の一例
例えばインターネットサービスプロバイダー(ISP側)は、意図的に速い回線(ファストレーン)と遅い回線を設けて、ファストレーンをNetflixやAmazonなどのコンテンツ配信業者が利用したければ、別途追加料金を徴収するという提案をしています。もしもこれを実施すれば、ISP側は、“速い回線”と“超速い回線”ができるという主張をしており、そういった発言のニュースのクリップを流した直後、オリバー氏は「Bullshit!(デタラメだ!)」と釘を刺します。
「ケーブル会社に2つのスピードのサービスを認めても、それらはウサイン・ボルト(陸上短距離の世界記録保持者)とバイクに乗ったウサイン・ボルトにはならない。ウサイン・ボルトと、船のイカリにつながれたウサイン・ボルトだ」
理屈で考えれば、ファストレーンを設けるという行為は、元々速い回線に足枷を付けて、2種類のスピードを用意しているに過ぎないわけですから、ISP側の主張のトリックを、ユーモアで的確に指摘したわけです。
また「ネットの中立性を支持する陣営」について、GoogleやFacebookなど大企業と、本来なら大企業に反発しそうな(ヒッピー的思想の)層の人々が同じ側に立って、ISPと対立しているくらいに、「ネットの中立性」を損なうことがヤバイことであると、こんな愉快な比喩で説明しています。
「レックス・ルーサー(スーパーマンの宿敵の1人で、Googleなど大企業を指す)が、スーパーマン(反体制主義の個人を指す)の住んでいるアパートの部屋をノックしている状況で、『聞いてくれ、オレたちの立場の違いは分かっているが、一緒に3-B号室の嫌な野郎(ISPのこと)を叩き出そうじゃないか』と言っているようなものだ」
またアメリカのケーブルTVサービスは、例えばニューヨーク、ロサンゼルスはTime Warner、フィラデルフィアとサンフランシスコはComcastというように、地域ごとにサービスプロバイダが割り当てられていることを、マフィアが領土の境界線を守るかのように例えた上で、両社が合併しても、サービス提供地域が元々重複していないから、“競争は維持される”と主張するComcastのCEOのインタビューを流した後、オリバー氏が、「そりゃそうだ! そもそもサービス提供地域に競合がいないのだから、これ以上競合も減りようがない」と一喝します。
「モノポリー(不動産売買で、土地を独占して資産を増やしていくボードゲーム)で、モノポリーカードを獲得し、モノポリー帽子を被り、モノポリー車に乗っている以上に、これはモノポリー(独占)だろ」と爆笑を誘いました。
つまらない物を面白くするバイラル力
これら以外にも、色んな笑いを含めた風刺を取り入れ、最後にFCCが120日のコメント期間を用意していることを紹介して、アドレスを示したところ、FCCのコメントシステムがダウンする騒ぎになったわけですが、「ネットの中立性」という、本当はほとんどの人々に関係する重要な話題であるにも関わらず、地味で分かり難いため、興味を引けなかったのを、バイラルを起こすことで、見事に人々の関心を集めたのです。
これは企業のマーケティングでも、置き換えられるはずです。扱っている商材がありふれていたり、マニアックあるいは地味なものだったりしても、バイラルで脚光を浴びられるかもしれません。事実、そういう試みをする企業も、増えてきており、つまらない物でも面白くさせるくらいでなければ、大量に溢れる広告の中に埋もれてしまい、広告費を無駄にするだけだと、肝に銘じておくべきです。
ちなみに続編の動画も、5月に公開されていたようです。Net Neutrality II: Last Week Tonight with John Oliver (HBO)