アメリカのネットの中立性 ①

(U.S. FrontLine誌 2015年3月20日号 掲載分、一部加筆・編集あり)

現政権になり、残念ながら危惧され続けた「ネットの中立性」が、いよいよ今にも崩壊します。以下は2年前に寄稿したものですが、今というタイミングでこそ、改めて知っておくべきだと思い、転記しておきます。

2015年の2月、この問題において、実は大きな第一歩となる決定が下されました。とは言え、まずこの「ネットの中立性」というトピック自体、読者の方には馴染みのないものかもしれませんので、まずはそこから触れておきます。なお本問題は、今日ほとんどの方に影響し得る内容であることも、一応念を押しておきます。

意味するところ

この議論は2000年くらいから盛んになっていたようですが、端的に言えば、インターネットサービスプロバイダー(ISP)が、自社のサービスに競合するなど、何らかの独断的理由により、特定のサイトをブロックして、ユーザーが見られなくするようにフィルターしたり、回線速度を意図的に調節したりして、ページがなかなかロードされ難くするような行為を認めるか否か、という話です。

さらには、特定のサイトやコンテンツ、サービスに対して、意図的に速い回線(ファストレーン)と遅い回線を設け、速い回線を利用するには、別途追加料金をコンテンツ配信業者から徴収する、といった行為を認めるか否か、という話も含まれてきます。

今日のブロードバンド回線を提供している通信業者(ISP)と言えば、業界最大手のコムキャスト、タイムワーナー(コムキャストに買収される可能性有)などケーブルTVの配信業者や、VerizonやAT&Tなどの電話会社がメインであり、昨今のインターネットTVやAmazonやNetflixなどの動画配信サービスなどは、彼らからすれば大量に帯域幅を使用するだけの迷惑な存在でしかなく、例えばYoutubeの動画や、Amazonのストリーミング映画が、わざと快適に見られないよう制御できる、という可能性を含んでいます。

仮にこれが認められるようになれば、コンテンツ配信業者がその料金を負担せざるをえず、いずれは視聴者が負担する、という展開になることも容易に想像できます。今まで無料で快適に見られた動画が、将来的には有料がベースになるなど、多くの一般の人にも影響があり得る話なのです。

また、資金に恵まれた一握りの巨大企業なら、このファストレーン特権を利用できても、それ以外の資金力のない大半の企業は、結果どれだけ有力・有益なコンテンツを配信できるようになったとしても、それをユーザーに届ける手段の所で足枷ができ、ISPに常に○○を握られている状態になるので、斬新なアイデアをもつ新規ビジネスが大成功を収めるみたいな世界も、終焉を迎えそうです。

背景

「ネットの中立性」を法規制するのに反対する側には、ブロードバンドのサービスプロバイダがコンテンツをブロックしたり、ネットワーク性能をわざと低下させたりするような計画はまったくないとの主張があるものの、現実に過去、コムキャストがP2P通信を意図的に遅くした例がありました。

また事前通知なしに、Netflixへ動画配信を制御したり、企業がフリーダイアルでテキストメッセージを受け取ったりするサービスを提供するHeyWire社が、警告もなく、いきなり何千というテキストが宛先に届かなくなるという事態に晒されるなど、既に色んな問題が起きているようです。

アメリカでは、独立機関であるアメリカ連邦通信委員会(FCC)が、こういった問題を管轄しているのですが、2008年8月にコムキャストに対し、ファイル共有ソフトの使用を不法に妨げているという訴えがあり、ファイル共有ソフトのブロックをやめなければ罰金を課すという決定をFCCは下したのですが、結局裁判では、ISPに対してFCCがそのネットワークをあらゆるコンテンツについてオープンにさせる権限を持たないとの判決が下されました。

この判決を受けて、「ネットの中立性」を危ぶむ議論が一時活発になりました。またFCCは、2010年、2011年と「ネットの中立性」を維持するための規制を強めていったのです。しかし、今度はVerizonが、その規制に異議を唱え、法廷で争っていたのですが、2014年1月に、結局、FCCが権限を逸脱しているとするVerizonの一部主張を認める判断が下され、再度、「ネットの中立性は死んだ」的な悲壮感が、一部のユーザーの間で漂いました。

対立の構図

「ネットの中立性」に反対しているのは、主に通信業者や共和党です。通信業者は自社の利害を考えれば、当然とも言えますが、政治に疎い方には、もしかしたら共和党が反対する理由がピンとこないかもしれませんので、大企業=共和党の主な政治献金ソースといえば、分かりやすいでしょうか? 議員が大手の株主というのもよくある話です。

一応共和党が主張する、いつもの規制緩和、自由競争主義を唱えてもいるわけですが、これまでの状況では、むしろ競争が起こり難い既得権者の独占状態と言えますので、茶番劇でしかないです。次回に続く。

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