日本ブランド衰退の理由⑥ まとめ

(U.S. FrontLine誌 2013年6月5日号 掲載分)

今では完全に当たり前となった全自動のドラム式洗濯・乾 燥機ですが、アメリカ市場においては、2001年にワールプ ール社が発売したデュエットという製品が、それまでの平 均価格の4倍以上だったにも関わらず、生産が追いつかな いくらいの大ヒットを記録して以来、市民権を得ていった ようです。本シリーズで数回にわたり取り上げてきた、女 性ランジェリーブランドのビクトリアズ・シークレット (VS)の成功例ともいくつか共通していて興味深いです。

固定概念を破る

当時のアメリカの消費者は、前面より上面から衣類を出し 入れする構造を好むという調査結果があり、前面ドア式の 洗濯機はあまり受けないと考えられていたそうです。ただ ヨーロッパではむしろこのタイプが人気だったようで、VS のケースと同様に、まだ市場に浸透していなかった概念・ 製品を持ち込んだわけです。

同じく市場調査より、家電製品は心理的な理由では購入さ れないとみなされていて、通常、ライフサイクルが12〜14 年もある洗濯機を、消費者が故障前に買い替える、という 発想自体もなかったようです。

消費者に本当にメリットとなる商品力

従来のものに比べ、容量が2倍あり、洗浄力の違いも目で 分かり、ドラムの中心に回転翼がないので衣類にやさしく、 省エネで使用水量・漂白剤も少なくて済み、前面ドアなの で洗濯物の出し入れがしやすく、洗濯機と乾燥機を横にも 縦にも並べられます。また洗濯と乾燥の時間的サイクルを 合わせることで、効率的に作業でき、時間を有効に使える など、明確な違い、実利的メリットが多数ありました。

心理面での結びつき

アンケート結果から、このデュエットという洗濯・乾燥機 のユーザーたちは、同製品に対して、「愛してる」「家族や友 人のよう」「誇りと喜び」といったさまざまな感情を持ってい ることが分かりました。ある空調の修理屋さんは、顧客で ある個人宅を仕事でまわる際に、もしも洗濯機が古くなって いれば、自然とこの愛するデュエットをお勧めしていたそう で、それこそ1時間くらいは話が止まらなかったといいます。

中間は淘汰される

勿論、洗濯機に強い思い入れのない層は、むしろ低価格の ものを購入するという動きがあり、思い入れの強い層が購 入するワンランク上の価格帯と、低価格帯の商品がよく売 れ、中間の商品が売れなくなるという、ほかの商品カテゴ リーと同様の、市場の二極化が進んでいるようです。

本シリーズの冒頭で、「特徴のないブランドはいずれ淘汰 される」とお話ししましたが、逆に「特徴のあるブランドは熱 狂的なファンベースを築けている」ともいえます。そのバロ メータの1つが、例えば上記のようにユーザーから「このブ ランドを愛している」というような感情表現を引き出せてい るか? ということです。これが大きな鍵になると考えられ、 我が社もクライアントのブランディングの案件において、特 に最近注力している部分でもあります。ちなみにVSでも熱 烈なファンになったユーザーの話が紹介されていました。

まとめ

製品のライフサイクルが長く、価格が比較的高い程、故障 前の買い替えについて、販売者側は消極的な考えを持つ傾 向にあると思います。それはある意味で正論かもしれませ んが、今日の「ワンランク上の消費行動」という流れに乗 れない(乗らないと決めた)場合、生き残るには低価格競 争の道しかなくなっていくように思います。果たしてそれ で中国・韓国ブランドとまともに戦っていけるのか? と いうのが、第一の課題でしょう。

モノが売れる・売れないは、必ずしも価格で決まるのでは なく、消費者心理を掴み、納得させられるようなベネフィッ トを提供できているかどうかで、価値判断されているのです。 顧客を甘く見ず、正面から向きあって正しく分析し、固定 概念にとらわれず、顧客に本当にメリットがあり、差別化 された商品を開発・提供することに努める。そして常に挑 戦し続けながら妥当な潜在市場を見据えたビジョン・ゴー ルを持ち、それを実現するためにブランディングを行い、 最終的に強いブランド・ロイヤルティーを持つファンベー スを構築する。それができれば、低価格競争に巻き込まれ ることなく、高くても大量に売れるというビッグビジネス を展開できる、ということです。

もともと本シリーズでご紹介した内容は、10年くらい前 にアメリカの消費者行動について書かれた本がベースでし たが、私的にはなぜ今、日本ブランドがいろんな市場で衰 退していっているのかを、結果的にうまく説明してくれて いるように感じたため、このようなタイトルで書かせてい ただきました。何かの参考にでもなれば幸いです。

もっと詳しくブランディングが必要な理由について知りたい方はこちらも参照ください: ブランディングについて

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