日本ブランド衰退の理由③ 分析とBI

(U.S. FrontLine誌 2013年4月20日号 掲載分)

前回、消費者は高くても買う場合と、できるだけ安く買う 場合を使い分けており、少し背伸びすれば誰でも買える “新しい贅沢品”と呼ばれるカテゴリーは、何らかの思い入 れにより、「高くても買いたい」という衝動を起こさせるこ とに成功している分野であるとお話ししました(従来の金 持ちが自己顕示欲のために購入する贅沢品と区別する意味 で「新しい」と明記)。また、その成功例として、女性ラン ジェリーのブランドで有名なヴィクトリアズ・シークレッ ト(VS)の成功例に触れました。

冷静な分析から始める

VSのオーナーであるレス・ウェクスナー氏は、1982年 に、年商400万ドルながら倒産しかけていた、VSという名 の4店舗のセクシー系ランジェリーストアを100万ドルで 買収し、1985年以降、毎年売上を25%、店舗数を16%増 やし、1995年で既に年商19億ドル、670店舗という規模 にまで成長させました。しかし、これもまだサクセススト ーリーの序章に過ぎませんでした。

最初の数年は、以前と同じ運営を継続しつつ、さまざまな 分析の時間にあてたそうで、前の店は、セクシー系ランジ ェリーの購買層を男性と想定し、内装も男性向け(アダル トショップ風)に施されていたことで、女性には店内が快 適ではない空間になっていた上、男性が好む下着は、女性 からすると魅力も感じられず、着け心地も悪かったと分析 しました。

アメリカのデパートも研究し、当時の売り場は、実用性重 視でロマンスは皆無、贅沢な品を購入しても贅沢な気分に はなれず、店員の知識も乏しく、買い物が快適な体験には なっていないと分析しました。

さらに1着のブラジャーが75ドル以上もするような高級 ブランドの下は、10〜15ドルのデパートブランドのほか、 3〜10ドル以下の下着という感じで、価格帯にかなりの開 きがある上、その隙間に目ぼしい競合もほとんどおらず、 ブラジャーの半分はセール品として売られ、「20ドル以上の 品は大量に売れることはない」というのが当時の通説だっ たそうです。

またヨーロッパの女性は、日常的に「ランジェリー」を着 けているのに対し、アメリカの女性は、日頃は「下着」を 着けているという文化の違いも把握し、イタリアの有名な 超高級ブランド「ラ・ペルラ」のような高品質とセンスを持 ちつつ手の届く価格帯の「大衆向けラ・ペルラ」を提供でき れば、業界に革命が起こせると考えたそうです。それこそ 魅力的で憧れを抱くような商品と、快適な買い物空間を提 供すれば、週末など特別な日だけではなく、日常的にラン ジェリーを身に着けてくれるようになるという構想でした。 そこで世界で一番美しい人たちが買い物をする空間という コンセプトを打ち立て、店舗の内装やディスプレイを女性 向けにロマンチックで魅力的に変え、ヨーロッパのランジ ェリーのテイストを意識しながら、流行に合わせたファッ ション性を備え、良い生地と優れた縫製方法を採用して、 大衆に手の届く価格帯で提供していったのです。

ブランドアイデンティティの確立

コンセプト実現のために、彼は架空の“ヴィクトリア”と いうブランド創始者の伝説も作り上げました。イギリス系 とフランス系の血を引く、世界トップモデルで洗練された 美貌とセクシーさを持つ彼女が、ロンドンに店を持ち云々、 と言う具合です。

このキャラクター設定やストーリーをブランドイメージと して活用し、マーケティング関係者は勿論のこと、店舗ス タッフに至るまで、自らそれを語れるくらいにまで浸透さ せ(対外的にも浸透したかは不明ですが)、共通のビジョン を持たせてブランド・アイデンティティ(BI)を確立させて いったのです。

また当時業界におそらく衝撃を起こしたであろう、ランジ ェリーのカタログにスーパーモデルを起用するという大胆 な行動も、前回の「固定概念を破る」であり、コンセプト を具現化するための手段の1つだったのでしょう。聞いた 話では、従来のセクシー系下着カタログの卑猥さを排除し、 誰が見ても恥ずかしくないファッション風のカタログにし たのも画期的だったようです。

日本からアメリカへ進出して来られる企業で、「アメリカ 人は××だから」と浅い分析と間違った戦略で、売れない 理由を片付けているのをよく見かけますが、失敗の言い訳 を考える前に、成功できる要因をもっと探すべきなのです。 仮に文化の違いがあっても、それを力づくででも浸透させ ていくぐらいの戦略と根性が必要ということでしょう。続 きます。

もっと詳しくブランディングについて知りたい方はこちらも参照ください: ブランディングが必要な理由

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