勝ち組の今流マーケティング 口コミ編③
(U.S. FrontLine誌 2011年3月20日号 掲載分)
前回、バイラル(口コミ)マーケティングには大きく分けて2種類あることをお話しました。意図的なマーケティングとして口コミを起こしていることを完全に隠して行うタイプと、あくまでも面白・インパクト広告として展開するタイプです。 最近、アメリカ進出を試みるある日本のメーカーを、我が社が救ったケースで大成功させたバイラル・マーケティングは後者でした。実は、前者のアイデアもあったのですが、成功するバイラルほど、それに関わった人(特にスポットで雇われるモデルやエキストラの人々)の中からリークが起きる可能性があり、そのリスクを取るよりも、真っ向から面白・インパクト系広告として攻めても、充分に成功させられるだけの強いアイデアがあったため、後者を選択しました。
その内容は簡単に説明すると、ブランディング・サイト(商品やブランドについて、より多くの人々にその存在を知ってもらい、良いイメージを浸透させるためのサイト)の中に、ふんだんにアメリカの文化に根付いたジョークを商材とミックスさせ、ユーモア系サイトに仕上げたものです。企画段階から、強いユーモアのアイデアが次々と浮かび、「絶対にいける!」と社内では充分に手ごたえを感じていました。
ポイントは、まず「笑えるか?」。そして、それを「人に伝達したくなるか?」でした。動画は凝ったことができる一方で、しばらくユーザーの目を引き止める必要があり、単発の強いアイデアなら有効なのですが、今回のターゲット層の範囲と、アイデアの量、およびサイト全体でブランディングしていくという目的から、瞬発力のある静画(画像)とテキストをメインで使っていく手法をあえて採用しました。
そして、本当に受けるのかを客観的な視点から確認するため、ターゲット層に該当するフォーカス・グループに仮のバイラル・サイトを見せ、フィードバックをもらいました。結果は、ほとんどがこちらの意図した以上の良い反応だった上、頼んだ訳でもないのに、フェイスブックを中心に勝手に口コミが広がり始めていったのです。その時点で、このアイデアが当たることが確信となりました。
その後、本格的に広告も投入し、より多くの人の目に触れさせることで、口コミを爆発的に発生させ、意図通りのブランディングを成功させ、卸販売も直接販売も売り上げが予定通り獲得できるようにしました。同時にフェイスブックのファンもうなぎ上りで増えていき、以前この案件を担当した“なんちゃって広告代理店”が、フェイスブック開設後1カ月で17人のファンしか獲得できなかったのに対して、我が社が担当してからは1カ月で約3000人、2カ月で約6000人…と増えたのです。
口コミで一番すごいこと
実はこの案件を受ける前に、もらっていた情報を基に現状を軽くリサーチし、直販ショップで予想できる売り上げを試算して伝えていました。その時想定していたのはPPC(クリック課金型広告)を中心とした集客による売り上げだったのですが、以前(2010年11月5日号、第41回)でも触れたように、PPCのクリック単価の高騰により、費用対効果という面でとても割に合わないという現実がありました。コンバージョン(お買い上げ)に対する集客コストが高過ぎたのです。かといって、即効性のある集客方法は他にはあまり存在しません。
このメーカーは、このままではビジネス自体が存続できない上、他に打てる手も思いつかないと頭を抱えていたので、我が社はバイラル・マーケティングの併用を勧めたのです。もちろん、バイラルが成功したらという前提付きですが、口コミで周りに伝達されるようにできれば、結果的に集客コストは軽減できるからです。仮に1人を集客するコストに1ドルかかっていても、その人が3人に伝達してくれれば、$0.33/人で集客できたことになります。実際に、このバイラル・サイトでの統計を見ると、口コミなしでただPPCだけで集客した場合の数値と比較すると、10〜20倍のトラフィックを得られていたことが分かりました。
これが以前、私が示唆していた、割高になったPPCを企業がまだ活用できるようにする「奥の手」です。限られた予算であっても、1人の集客コストで何人分まで集客できるか? を追求するマーケティング手法、これがバイラル効果の真髄です。