勝ち組の今流マーケティング口コミ編①
(U.S. FrontLine誌 2011年2月5日号 掲載分)
前回、アメリカ進出を試みていたある日本のメーカーが、 “なんちゃって広告代理店”に大金を支払うも、成果がなく 途方にくれていたのを、我が社が救ったケースについてお 話ししました。救済の要因は大きく分けて2つで、1つは間 違った思い込みで設定されたターゲットと基本戦略の修正、 もう1つは、バイラル(口コミ)マーケティングを大成功 させたことです。
実はその悪徳業者もバイラルビデオの提案はしていたよう です。ただその業者が行ってきた、“なんちゃってSEO”や “1ヶ月で14人のファンしか獲得できないSNSマーケティン グ”を見ただけでも、広告代理店としての実践能力は極め て疑わしかったわけですが、バイラルに至っては、口コミ が何故起こるのか?という基本中の基本すら理解していな いことは提案内容から明白でした。
完璧なテレビCMでも無意味
大そうな予算を掛けてビデオを作る計画だったようです が、その内容は特に面白くもなければ、人がそれを見て誰 かに伝達したくなる要素も全く見当たりません。百歩譲っ てみても、せいぜいテレビCM的な内容にしかなり得ないも のでした。
そもそもバイラルマーケティングとは、バイラルネタ(サ イト・ビデオ・画像など)を見た人が、自分のまわりに 「これ(面白い・すごいから)見て」と勝手に伝達してくれ ることで、口コミを発生させるものです。皆さんのここ1ヶ 月の生活を思い出してみて欲しいのですが、思わず自分が 見たテレビCMを誰か他の人にも見るように勧めた経験がど れくらいあったでしょうか?
CMとは、あくまでも広告主が消費者に向けて放つ宣伝で しかありません。ですから期待できるのは、良いシナリオ でも、見た人がその宣伝内容に興味やポジティブな感情を 持ってもらえる程度の効果です。つまりテレビCMとバイラ ルビデオとでは、本来期待すべき成果も全く違う、別次元 のものなのですが、“なんちゃって広告代理店”ほど、この 違いを理解できていないように思います。
またこの業者は商品の特徴・用途を完全に無視して、人が その商品を欲しがる理由さえも損なうようなアイデアを提 出していましたが、このメーカーは業者のトークに乗せら れたのか、或いはよく内容を理解せずに契約してしまった ようです。
勿論「面白くない」というのは主観的な話なので、その内 容で本当に失敗するかどうかを私が決め付けるべきではな いのですが、それ以前に、まだこの業者がバイラルマーケ ティングを全く理解していないとはっきり分かることがあ りました。
バイラルでよくある誤解
それは仮にどんなに面白いバイラルネタでも、その存在を 積極的に人の目に触れさせなければ、爆発的かつ短期で広 まることはないという事実に対する不理解です。勿論口コ ミを起こすためのものなので、理論上は1人から始まっても ねずみ算式に広まっていくことを期待するわけですが、数 年掛けて広めてよいのならともかく、短期間で口コミを爆 発的に起こさせるには、最初の段階からある程度の人数の 目に露出させる必要があるのです。通常はバイラルネタの 制作と、露出させる手段を併せて行ってバイラルマーケテ ィングが成立します。
アメリカ進出1年である程度の結果を求めていたメーカー としては、現実問題として、数ヶ月でバイラルを成功させ る必要がありました。しかしこの業者は、制作に対する提 案には熱心だったものの、制作したものを露出させる戦略 も予算も全く考えていませんでした。素人が喜びそうな凝 ったウェブデザインをただ見せて、顧客の満足を一時的に 得る、“なんちゃってウェブ業者”の手口と何ら変わりませ ん。
勿論、それ以前にターゲットの選定からズレていたので、 そのまま進んでも焼け石に水状態でした。
後で現地の担当者から聞いた話では、最初はこの“なんち ゃって広告代理店”ですら、ターゲットの選定に関する間 違いを指摘しようとしていたそうです。アメリカを理解し ていないメーカーの社長が、聞く耳をもたないので業者も 途中から投げたのかもしれません。その後は業者も完全に Yesマンと化したそうで、言われたとおりの間違った戦略で、 間違った動きをとり、無価値なモノを作り、相応の散々な 結果になっていました。