成功例から学ぶ失敗の方程式
(U.S. FrontLine誌 2011年1月20日号 掲載分)
この連載では、“なんちゃって”IT業者や広告代理店があ まりにも多く存在することに対して、被害に遭った会社の 事例のほか、相手の嘘を見破るための予備知識を、何度と なく紹介してきました。我が社へ問い合わせてくる企業に は、過去の何らかのプロジェクトでこうした業者に依頼を して大失敗し、本来あるはずの予算を失ったうえで助けを 求めてくるところも多くあります。相手に同情し、厳しい 現状から救ってあげたいと思う一方で、「最初からしっかり 判断していれば、こんな失敗はせず、まともなスタートが 切れただろう」というフラストレーションを感じることも 多々ありました。
最近、悪徳業者に遭遇しただけでなく、依頼した側にも大 きな問題があったケースを経験したので、紹介します。
勘や思い込みでは成功しない
悪徳業者に仕事を依頼してしまったのは、日本で売れてい る商品をアメリカで販売展開しようとしていたあるメーカ ー。商品は確かにアメリカで売れる可能性の高いものでし たが、最初に想定していたターゲット市場と戦略を大きく 間違えていました。
せたレポートの「直販ショップをオープンして○カ月後か ら××くらいの売り上げが上がる」といった主旨の内容を 事業プランの核にしていましたが、このレポートの「なぜ その金額の売り上げが獲得できるのか?」という根拠はお 粗末なものでした。例えば、ショップであれば、何人の集 客をどのように行うという話が前提になければ、いくらの 売り上げを獲得できるという根拠にはなり得ず、市場規模 がいくらであっても、単に「いくらの売り上げが欲しい」 という希望を述べているに過ぎません。
実際にアメリカでの販売開始後、売り上げがほとんどなく、 不安になったそのメーカーが、我が社へ駆け込んできたの です。なぜ最初にその業者を選んだのかと尋ねると、「ウェ ブ検索して上位に出てきた」とのこと。しかし、その時点 で検索しても、その業者のウェブサイトは出てきませんで した。その業者のサイトを教えてもらってソースを確認す ると、検索エンジンスパムという、禁止されている手法を 使い、何とか強引に検索表示順位を上げようと試みていた ことがすぐに分かりました。
ただし、それも初歩的なスパム手法だったため、その程度 の技術では今の検索エンジンでは上位表示できないので、 お金を払えば誰でも検索エンジンに広告を上位表示できる PPCを使っていただけだと思います。いずれにせよ、自然 な検索結果で上位表示させるSEOの技術など全くないこと は明らかだったのですが、そのメーカーはSEOのサービス 費用をその業者に支払っていました。当然ですが、そうし た業者が開設したショップでは、ビジターがほとんど来な いので、売り上げも皆無です。
また、このメーカーはSNSマーケティングの費用も支払 っていたのですが、facebookにページ開設後、1カ月で獲 得できたファンはたった14人。その業者が行った内容を確 認してみると、全くでたらめなことをやっていたのは一目 瞭然でした。
そのメーカーを救えた要因は2つ
ちなみに、我が社がそのメーカーのマーケティング全般を 請け負ってから最初の1カ月で、facebookで3000人弱のフ ァンを獲得したほか、売り上げも理想的に上がり、ブラン ディングも意図通りの大成功を収め、その商品を取り扱い たいという代理店希望も多数獲得できました。結果的にそ のメーカーを救ったわけですが、その要因は大きく分けて2 つありました。
アメリカの実情を理解しようともせず、「日本ではこう売 れた」的な思い込みだけで突っ走ろうとするメーカーをよ く見るのですが、この会社も正にその類でした。ターゲッ トの選定と売り方の基本戦略から間違っていたので、その ような選択の根拠を問い詰めると、最終的には「成功した 会社も結局は理論ではなく勘でやっている」と主張する始 末(汗)。年商数億円規模のビジネスなら、確かにオーナー 社長のセンスだけで持っている会社も多々あると思います。 しかし、まずそのセンスさえ疑わしい上、「業界×位を目指 す」と豪語していた相手だけに、いっそお断りしようかと も思ったのですが、悪徳業者に騙されて気の毒という一定 の同情があったので、とりあえず間違っていることを説得 し、適切なターゲット選定と戦略に軌道修正したのです。
そしてもう1つは、バイラル(口コミ)マーケティングを 大成功させました。これについては、次回に続きます。