2015年12月2日水曜日

TPPについて思うこと ②

(U.S. FrontLine誌 2015年11月20日号 掲載分、一部加筆あり)

前回TPPが日本にもたらす未来を知りたければ、今現在のアメリカを見ればよいこと、そして農産物や工業品、製造品などの輸出入に留まらず、保険、金融、医療、公共事業、建築、電気通信、投資、知的財産権など、ありとあらゆる分野に影響するTPPは、“関税の撤廃で消費者は安くモノが買えてハッピー”というような単純な話ではなく、トップ1%の富裕層のアメリカ国内支配で実践してきたビジネスモデルを、日本を含めた世界市場に展開させようとする動きそのものであり、流通するモノ自体の危うさに加え、流通・販売構造をも大変革させ、スモール、ミッドビジネスをあっという間に淘汰した後、一部の超大手に市場を占められるようになるのを覚悟する必要があることについて、お話ししました。

非課税障壁も狙われる

関税以外にも、市場への参入障壁となるものはすべて、自由貿易推進が原則のTPPでは狙われることになり、こちらの影響も甚大で、例えば日本では現在義務付けられている「遺伝子組み換え」の表示も、販売上(日本市場参入のために投資した側には)不都合に働くという理由で、規制を撤廃させられるか、あるいは今後そういった国民の安全を考えた規制を強化した場合に、投資家の参入障壁になったとして、国が損害賠償請求される可能性などは有名な話です。

医療制度・環境への影響も深刻で、懸念が色々ある中、まずは医薬品の価格が上がります。日本の場合、今までは国が価格を決定する制度だったため、リーズナブルな価格で提供できていましたが、これは製薬会社にとって多大な参入障壁ですから、制度変更させられるわけです。

製薬会社はTPPによる知的財産権条項も武器に、安いジェネリック医薬品を締め出し、好き勝手に値段を上げられるので、いきなり50倍になるとか、現在のアメリカで現実に起きていることが起こり得るのです。

また薬代の高騰で、今でも財政難の国民健康保険(公的保険)ではカバーできなくなり、(現在まではほとんど認められていなかった)保険適用内・外の併用診療と営利企業の医療機関経営の解禁から、医療費も高騰し、公的保険の適用範囲を限定的にし、それ自体の有効性を奪い、民間保険の需要を増大させるというシナリオが浮かびます。

これもアメリカの現状そのもので、最終的にお金のある人のみが、高額の保険料と治療費と引き換えに、まともな医療を受けられるという世界へ突入させられることになります。

ポイントは、こんな例など氷山の一角でしかなく、こういったリスクをすべて事前に把握し、交渉上で万全な策を練るなど不可能であり、例えばファイヤウォールのポート全開で一部フィルタを足して安全と謳うようなものです。(どこのポートが攻撃されるなど予測不可能なので、本来はポートを一旦全部閉じた上で、必要なポートだけを限定的に開けるのが、セキュリティ上での鉄則といえます。)

投資家の損得だけがすべてのISD条項

TPPの巨大リスクで有名なのが、ISD条項(InvestorStateDispute Settlement)やラチェット規定ですが、ISD条項は、投資家と国との紛争を、世界銀行内の機関である国際投資紛争解決センター(ICSID)で裁くというものです。

この機関は、最高裁より上位で国内法をも飛び越える存在で、例え国益のための政府の政策であっても、争点はあくまでも投資家がどういう経緯で損失を被ったのかでしかなく、国民ではなく投資家のためだけに存在するISD条項は、主権の侵害になると言われています。例えば、脱原発を発表したドイツが、海外の投資企業に提訴され、多額の和解金を支払わされたのは記憶に新しい話です。

ラチェット規定は、後戻りを許さないために、仮に一度開いた市場を縮小しようものなら、多大な賠償で賄わせる等、現実的にそういうオプションを絶つものです。

百戦錬磨の相手に丸腰?

世界銀行は、出資額の多いアメリカが一番影響力を持っており、総裁も米国出身者からという慣例で、その機関内のICSIDも勿論米国寄りで、最初から中立ではなく、上訴制度もない上、密室裁判となります。事実として、これまでISD条項でアメリカが訴えられて、負けたことはないとか。

これに対する安倍政権の答弁で愕然としたのが、「過去に各国との貿易協定でISD条項はあったが、日本が訴えられたことがない」という論旨です。訴訟もないだろうから契約内容など重要ではないとでも言いたいのでしょうか?

元々何らかの信頼関係があるから商談があり、それでも想定外の訴訟に備えて契約書が存在するわけで、昔よく聞いたような、契約書もなく数億円のシステムを発注して、後で泣き寝入りしているダメ日本企業を彷彿させられました。

また本来ISD条項は、法整備の甘い発展途上国との取引で、自国の投資家を守るためのもので、本ケースは訴訟大国アメリカとの取引がメイン。日本企業の米市場進出サポートでたまに遭遇する、日本流儀が通用するという幻想を抱いたやば~い案件と被ります。百戦錬磨の相手に未経験者が丸腰でどんな戦いができるというのか…(続く)

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