「フェイクニュース」について2

(U.S. FrontLine誌 2018年02月号 掲載分、一部加筆・編集あり)

前回、お金稼ぎのためにフェイクニュースを拡散する捏造サイトが何百もあることに触れました。またフェイクニュースで私が真っ先に連想する代表格が、メディア幹部・関係者が共和党政権の政策・運営幹部などで構成される、典型的なプロパガンダ機関のFox NewsやBreitbart Newsであり、実例にも軽く触れました。

フェイクニュースの本丸

さて、もう1つのフェイクニュース発信の本丸は、現在のホワイトハウスであり、トランプ氏自身といわざるを得ません。彼は明らかな偽情報から、まともに根拠も示せない信憑性の低い情報まで、政治的な意図も伴い拡散しています。カナダで一番発行部数の多い新聞社の記事によると、トランプ氏は就任式から本稿執筆時点までに、865の偽情報を流しており、1日平均2.8個の嘘をついているとか。

大統領就任式ではトランプ氏が「100万人以上が集まった」といつもの根拠のない発言をし、ホワイトハウスも公式に、“集まった人数は過去最大規模だった”と発表をしたすぐ後に、写真検証で虚偽だと判明しました。ホワイトハウス自体もこの次元からの偽情報を発信するのかと思うと、空恐ろしくなりました。

「保険会社はオバマケアで大儲けした」というトランプ氏の発言も典型的です。その根拠としてホワイトハウスが挙げた、2017年初期に大手保険会社トップ5社が45億ドルを稼いだという報告について、多くの専門家が間違いを色々と指摘していました。根本的にその利益がオバマケア(AffordableCareAct、以下ACA)と結び付いておらず、むしろACA市場においては、保険会社は利益を下げていたからです。

事実、大手保険Aetnaは2016年から2年間で6.5億ドルの損失により、ACA市場から全面撤退しますし、UnitedHealthGroupも2015年から2年で約10億ドルの損失で撤退です。Anthemや他の保険会社も数州で撤退します。

参考記事

ちょっと考えれば、誰でも矛盾に気づけると思うのですが、本当に儲けていたのなら撤退などするわけがないのです。

そもそもACAは、加入拒否や契約解除、保険料決定など、これまで保険会社のやりたい放題だった仕組みに規制を設け、保険の生涯上限も撤廃させるなど、加入者が大病をした時に本当の意味で保険によって守られ、泣き寝入り(自己破産)しなくて済むための制度でした。しかし、大手保険会社が共和党の大バッカーであるため、さまざまな抵抗も受け、残念ながら不安定で穴がある妥協案にはなりましたが、“保険会社を儲けさせるだけの悪制度”などと稚拙な嘘のレッテルを貼り、本質への矛先を躱して人を欺こうとするトランプ氏は、きっと支持者をも愚弄しているのでしょう。

今のメディアの傾向

教育水準の低下が、正しい情報よりもジャンクフード的なネタを求める人を増やし、メディアもビジネスのために検証責務をほとんど放棄した結果、フェイクニュースは基本、左右どちらにも溢れています。右は洗脳が主目的なので、間違いを指摘されてもシラを切り、偽情報であることすらもなかなか認めません。左は旬なネタでできるだけビューを稼ぐために、事実確認もそこそこに情報を流し、間違いが発覚すれば訂正・謝罪で済ませます。

誰かのツイート1つがニュースになり得る今の時代では、ソーシャルメディアに拡散されるほとんどがフェイクニュースといっても過言ではなく、情報ソースの確認は当然のこと、とりあえず2日くらいは待って、訂正・謝罪記事が出回っていないかを再チェックでもしない限り、危なくて何も信用できなくなってきています。

メディアにおけるもう1つの懸念

もう1つの気がかりは、大手ネットワーク系列ではない、足で情報を稼ぐ記者を抱えるリベラル系ローカルの独立系ニュースが、近年いくつか閉鎖されていることです。

例えばGawkerなどは、2016年の大統領選挙の数カ月前に、昨年の秋頃には、LAist、DNAinfoやGothamistなども閉鎖されています。これらはビリオネアの大金持ちに一旦買収されてから、結局閉じられたように見えます。

また共和党の大バッカーで、ティーパーティの資金源でもある大富豪のコーク兄弟が、以前にLATimesやシカゴ・トリビューンなどの老舗メディア8誌の買収に動き出して話題になりましたが、今回、Time誌の買収をサポートしました。

偽情報でも繰り返し拡散されたり、露出比率が逆転したりすれば、人々を操作しやすくなるのは明白です。現代においてメディア・リテラシーが如何に重要であるかは言うまでもありませんが、そもそも何を見ていけば安全なのか、断言できるものがないに等しくなってきました。

追記:昨年の12月に、なんとディズニーがFoxを買収しました。ディズニー社は、Apple社の故スティーブ・ジョブズ氏の妻である、ローレン・パウエル・ジョブズ氏が個人では筆頭株主ですが、本買収の過程で、Foxの創業者が個人では2位の筆頭株主になるとか。ディズニーの社外取締役だったFacebookやTwitterの幹部も、今年1月に退任しています。退任理由は一応、動画配信サービス絡みでの利害関係だったとは思いますが、”利害関係”なら他にいくらでもあり得る話なので、悪い予感しかしません。またこの買収で、Fox Newsは別会社として残すという記事もどこかで見たのですが、この買収劇が世の中にとって吉と出るか、凶と出るのか、とにかく警戒しながら追って見ていきたいと思います。

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