「フェイクニュース」について1
(U.S. FrontLine誌 2018年01月号 掲載分、一部加筆・編集あり)
明けましておめでとうございます。昨年は、「フェイクニュース」という言葉をよく耳にされた方も多いかと思います。 同じ表現でも、人により示す対象がまったく異なるのが今のアメリカの実情であり、致命的な危険性を顕しているともいえます。
フェイクニュースの実体
昨年、「フェイクニュース」 発信の筆頭であった、ポール・ホーナー氏が 38 歳で死亡し( 死因は処方薬の過剰摂取?)、話題になりました。 彼は主要メディアと関係していそうな紛らわしい名前の捏造サイトを複数運営、偽情報を多数拡散した人物で、後に自ら暴露した、2016 年の大統領選挙中に広めた有名なネタの1つは、こんな感じです。
『トランプ氏の集会に抗議活動として参加した男性は、 実はクレイグズリストの募集広告を見て応募して雇われた人物で、3500ドルを受け取っていた』
本人曰く、実際に偽広告まで出し、自らサクラを演じていたそうですが、 この偽情報をトランプ選対本部長はじめ、主要幹部がツイッターで事実であるかのように拡散し、ソーシャルメディアでの共有数は約43万件にのぼったとか。ちなみにトランプ氏のフォロワーは、 ファクト チェックしない鵜呑み層だとホーナー氏がインタビューで語っていました。
フェイクニュースをソーシャルメディアで拡散すると、 リンク元の捏造サイトに大量のトラフィックが得られます。 そこへGoogleの広告ネットワークから配信される広告を表示させると、クリックされる毎に広告収入を得られるわけですが、そういうお金稼ぎをする人は多数います。
旧ユーゴスラビアの若者たちが、紛らわしい名前で140ものアメリカの政治サイトを運営していた、という記事もありました。例えば WorldPoliticus.com、TrumpVision365.com、USADailyPolitics.com といった具合です。彼ら曰く、左寄りのサイトやバーニー・サンダース支持者向けのコンテンツも試したところ、トランプ支持者ほどのトラフィックにはならなかったそうです。
またロシアがアメリカ大統領予備選の頃から、Facebook広告に10万ドル以上投じて、分断を煽るようなフェイクニュースを流していたことも発覚しています。一般にフェイクニュースから連想されるのはこの辺りかもしれませんが、私は真っ先に別の2つを連想します。
典型的プロパガンダ機関
1つはアメリカで一番視聴されているFoxNewsで、提携関係のBreitbart Newsなども同様ですが、事実確認もないに等しいネタを、ニュースとして厚顔に取り上げています。元CEOや会長が歴代共和党大統領の政治コンサルタントや、元トランプ政権首席戦略官・大統領上級顧問である上、他のメディア幹部・関係者も共和党政権の政策・運営幹部などで構成される、典型的なプロパガンダ機関です。すべてが偽情報ではないにせよ、そういう背後関係を理解せず、これらを真っ当なニュースソースのつもりで視聴しているとしたら、極めて危険です。
先日、ロシアゲート捜査の中で、トランプ陣営の元選対本部長など幹部2人が起訴され、元外交顧問がロシアとの接触事実で偽証していたことも判明しましたが、翌日のFoxは、“ヒラリーの方が10倍以上悪い事をしていた”という見出しの記事を書いていました。ヒラリー氏について何か犯罪の証拠でもあれば、とっくに起訴できていたわけですが、起訴すらもされていない相手を証拠もなく、10倍悪いと非難する内容にはニュース性はありません。一方、元トランプ陣営の起訴された人物が認めた偽証の内容は、深刻な問題に発展しかねないも ので、“その元外交顧問はそんなに悪くない”と、わざわざ擁護する必要すらも本来ないわけで、分かりやすいプロパガンダの一例でした。
またトランプ陣営は、ロシアゲートを魔女狩りだと騒いでいますが、トランプ・ジュニア氏も同席して、ロシアとの共謀を企てたことまでを認めており、「やろうとしたけど、“結局できなかった”」という弁明を信じるか否かが今の争点であり、もはや魔女狩りでも何でもないわけです。一方でヒラリー氏の私用メール問題などは、例えグレーであっても起訴すらもされていない以上、法的にはクリーンなのに、FoxやBreitbart Newsをはじめ数百の捏造サイトからフェイクニュースが拡散され、刑が確定した極悪人のような扱いをされ続けています。10年以上かけて、後半は議会も共和党が掌握した中で、“疑わしい”という印象操作以上のものが一切出せなかった事実を顧みると、魔女狩りという表現はヒラリー氏に対しての方が当てはまるかもしれません。続きます。次回は本題、2つ目のフェイクニュースの本丸に迫ります。