ネットでの独占事情 アマゾン

(U.S. FrontLine誌 2013年10月5日号 ~ 2013年11月05日 掲載分を、一部抜粋・加筆、編集)

昨年(2012年時点)の年商が610億ドル以上というアマゾンは、ネット上での小売りビジネスを、いろんな意味で占めに入っているなと感じることが多々あります。その1つは、Amazon.comでおそらく手に入らないものはほとんどないだろうとお話ししたように、えげつないくらいの品ぞろえです。

無敵の品ぞろえ

一応念のため、今のアマゾンの仕組みを簡単に説明しておくと、アマゾンという1つの巨大なショッピングモール内に、無数のオンラインショップが存在しており、そこにはアマゾン自身が運営するショップと、アマゾンが提供する出店サービスを利用して、各企業・個人がいわばスペースを借りて出店しているものが混在しています。

さらにアマゾンは、フルフィルメントby Amazon(FBA)と呼ばれる、ショップ運用代行サービスも提供しており、事業主が在庫をアマゾンの倉庫にあらかじめ納入しておくと、顧客からの注文が入ってから、代金の回収・出荷までの一連の業務をアマゾンがすべて代行してくれます。

アマゾンの出店サービスは、初期費用無料で、月々のレンタル費も50ドル以下ですし、FBAも利用するなら、それこそ注文管理・出荷業務を行うスタッフも必要がなくなるので、とにかく誰でも手軽にオンラインショップを始められる環境を用意しているといえます。それ故、膨大な数のショップが既にアマゾン・モール内には存在しており、結果的に無敵の品ぞろえを実現できているのです。

ショッピングサイトでは断トツのトラフィック

またオンラインショップユーザーに対するアマゾンの認知度は絶大で、商品レビューも充実していることから、オンラインで買い物をするなら、まずはアマゾンから探すというユーザーも非常に多く、アマゾン・モール自体のトラフィックが半端ではありません。

あるウェブ統計に拠れば、全米で5番目(世界でも8番目)にトラフィックのあるサイトだそうです。ちなみに全米1位はGoogle、2位はFacebook、3位はYouTubeというように、“サイト”といっても、そういったスケールでの話になっています。

検索エンジンからのトラフィックでも、SEO(自然な検索結果の上位に表示させて集客する手法)的な観点でいえば、アマゾンは構造・環境的にも無敵に近いといえます。その上、最近では、ショップページ以外にもウェブページとしてのコンテンツも任意に追加していけるサービスを拡充させており、対ユーザーに対する訴求力もさることながら、SEO的にも完全に占めにきているなと感じています。

企業ビジネスの場合、利益率的な問題もあり、アマゾン内にショップを持ったとしても、自社でも独自でショップやサイトをもっている所が多いと思いますが、仮にこの便利なアマゾンのページ作成機能を使って、自社サイトで既に掲載していたコンテンツを流用しようものなら、検索上では、アマゾン内に後から作られたページの方が上位に表示される可能性があるのです。

下手をすれば、オリジナルページの方が検索エンジンからはミラー(重複)コンテンツとみなされかねないくらいで、とにかくアマゾンが強力過ぎるのです(ちなみにミラーとみなされたページは、SEO的に価値を貶め、最低でも検索エンジンから無視されるようになります)。

中小では太刀打ちできないサービス品質

また先のFBAを利用した場合、配送業務から、配送に関する問い合わせ・返品対応までアマゾンが管轄することになるため、アマゾン直営店と同等のサービス品質を顧客に提供可能になります。

例えばアマゾン・プライム(年会費を支払うことで、いつでも2日で届く発送を追加費用なしで選べるなど、さまざまな特典が用意された会員サービス)の商品対象となる上、通常発送でも無料にできるなど、ユーザーに対して多様なメリットを提供できるようになるのです。

つまりアマゾン・モールを利用したショップは、品ぞろえ、トラフィック、ユーザーへのさまざまなメリットなど、ショップとしての戦闘能力が、普通に考えても中小企業ではとても太刀打ちできないくらいに強力なものを、簡単に備えることができるわけです。

それこそ世の中の中小企業が運営するオンラインショップは、いずれアマゾンという世界展開する巨大な1つのモール内に、吸収されるか、淘汰されてしまうと思えるほどの勢いなのです。それならいっそのこと、アマゾン内で存続して利益を出していけばいいのでは? と考えられるかもしれません。ただそんな甘い話にはならず、そちらの道も決して安泰ではないのです。

アマゾン外にもショップを持つ理由

もちろん、アマゾンの各サービスを利用して出店していれば、いろんな手数料が発生します。あくまでもショップを始めるのが簡単というだけなので、ある程度売上の見込めるビジネスならば、やはり自社で運営した方が利益率的にもメリットはあります。

また同じ商品がアマゾン内のほかのショップでも取り扱われていることは通常であり、ユーザーが比較しやすくなるように、アマゾンは出店者にメーカー品番やメーカー情報などを強制的に提示させており、結果、嫌でも価格勝負を強いられることになります。

さらにがんばって自社ショップへ集客をしてきても、上記の比較フレンドリーなモール構造がある限り、ユーザーが他店へ流れてしまう事態が簡単に起こりえます。

要するに消費者にとってはいろいろ便利にできていたとしても、事業者側からすれば、決してありがたくはない競争必至の構造になっているのです。

専有商材の場合のリスクは?

では、メーカーが自社製品のためのショップをアマゾン内にもつ場合や、総販売代理店がエクスクルーシブで取り扱う商品を出店する場合などで、比較される同一商品がなければ大丈夫でしょうか?

そもそもメーカービジネスであれば、本来は代理店をできるだけ募って、自社の代わりに販売展開してもらえないと、ビジネススケール的には非常に厳しいことになります。自ら直販ショップを堂々とアマゾン内に出店していれば、代理店からは見向きもされなくなるのは必至なので、ビジネスモデル的に論外といえますが、そこは仮に1万歩くらい譲ったとしましょう(笑)。

同一商品ではなくとも、類似商品が山ほど存在するのが、アメリカ市場であり、アマゾンです。最低でも類似商品との熾烈な競争を煽られるところまでは、簡単に想像できるかと思います。

あるいは代理店の顔色を一応気にして、堂々とは店舗展開できないので、メーカーがアマゾンへ直接商品を納入して、アマゾン直営店から代理店として販売してもらう、という選択肢もあります。

いろんなマージンはとられるにせよ、リスクも労力もなく、一見悪くない選択肢に見えるかもしれませんが、いえいえ、リスクは伴います。

いろんな業界で起きてきたことなのですが、大手は売れる商品を把握すると、プライベート・ブランド(PB)として、中国辺りで類似商品を安く自社で生産します。それらが、いずれはオリジナル商品に取って代わる可能性もあります。

つまり最初の一時期だけは、良い顔して代理店として販売してくれるのですが、それがビジネス的においしい商材だと判断すると、PBに切り替えてくることも、ある程度覚悟しておく必要があるということです。

またアマゾンは、代理店時には様々なマーケティング的に有用なデータを蓄積します。実はアマゾンの大きな強みでもあり、かつ、脅威の1つが、モール内のユーザーの行動パターンを恐ろしいくらいに分析・把握できていることです。

消費者行動の研究については、アマゾンを超える媒体はおそらくないと思われ、彼らがそれを広告ビジネスにも生かす動きをとり始めた際には、それこそGoogleが脅威を抱いたくらいです。

そして、そもそも大手の製造コスト・流通網と張り合わなければならないことを考えると、特にPB展開で敵対された中小企業のメーカーに、その先、果たして明るい未来があると思いますか?

もちろん、全てにおいて大手がPBを出そうとするわけではありませんが、相手を過信すべきではないし、アマゾンに関しては、モラルという意味でも非常に危険視していることがあります。これについては、次回お話しします。

人気の投稿