ある小さな街の高校生の話
(U.S. FrontLine誌 2014年07月05日号 掲載分、一部加筆・編集あり)
つい先日、カナダのユーコンという人口3.3万人ほどの小さな街(アラスカの隣)にある、カソリックの高校の卒業式で、卒業生の半数以上が、レインボーのソックスを履いて、式に出ていたことが世界中のニュースで取り上げられました。
発端は、カソリック教会が、同性愛者を“無秩序”と表現し、同性愛行為を“堕落したモラルに反する行為”として、学校に対して、同性愛を認めないポリシーを強要してきたことが始まりでした。その高校の生徒であるケイト・パワーさんは、ゲイの友達もおり、自分の通う学校が、差別的な学校であってほしくないと、この学校の動きに反対するグループを作りました。
ユーコンの教育局としても、公的資金を受けている学校でのこういう動き(同性愛を認めないポリシー)は認められないとしていたのですが、学校はなかなか譲らなかったそうです。
結局1年間も、このグループは保護者や教育局とともに、学校と戦ってきたそうで、抗議の意味を込めて、LGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダ)の象徴であるレインボーカラーのソックスを履いて、卒業式に出席したのです。ある記事によると、この学校のゲイの生徒の父親が、こんなにも周りの人達がサポートしてくれていることを実感して、涙ぐんでいたそうです。結局、学校側が折れる形で決着しました。
このレインボーソックス
さて、この話が一体何と関係しているのかといえば、実はこのレインボーソックスは、ケイトさんが我が社の運営するショップから購入したものだったのです。最初にコンタクトしてきたのは今年の初めくらいで、担当したスタッフ曰く、確かに思い起こせば、ゲイ、レズビアンをサポートする運動のため、とさらっと説明はされていたらしいのですが、学校のクラブ活動か何かだろうと思っていたそうです。
そのときは参加人数もまだ分からない状態で、実際に正式注文をしてきた5月までの数カ月間、呼びかけや、資金集めもしながら、この若い女子高生が、何度も大量注文のディスカウントの交渉を一生懸命してきていたそうです。
そして6月10日の今日、彼女からサンキューメールと写真が届いて、「ああ、かわいい卒業式でよかったよねー」、「Facebookにこの写真アップしていいか聞いてみよう」くらいの乗りで、スタッフが返信したらしいのですが、後で1人が、彼女のメールの文中に、またさらっと「世界的なニュースになったみたい」と書いてあったのを思い出し、ふと検索してみたらビックリ! まさかこんな本格的な運動をやっていたんだと、驚き感動したという話です。
うちのショップが、以前からFacebook上で、LGBTへの支持を示していたことが、今回彼女がうちで注文してくれたことと、直接関係していたのかは、定かではないのですが、とりあえず値引きしたとはいえ、高校生にはかなりの金額負担だったと思われ、彼女の勇気と行動力を称え、全額うちのショップからの寄付として、返金することにしました。
今、企業に求められている姿は?
以前、本稿でも、SNS上でのユーザーの反応の度合いを示すエンゲージメント率を高めるには、無難に大衆受けすることだけを考えず、自分のカラーやスタンスを明確にするのも、ひとつの方法だということを取り上げました。
その際、近年、死にかけたブランドと言われていた、古くからあるマスタードのブランドである、Grey Pouponが、ゲイ・プライド(LGBTの人々が、自己の性的指向や性自認に誇りを持つべきという考え)を支持するCMで話題を集めたことや、我が社が運営するショップでも、同様に支持するスタンスを示し、エンゲージメント率が高まった例をご紹介しましたが、SNSが人とのコミュニケーションの場だとすれば、エンゲージメント率は、その人々と企業との繋がりの深さの指標でもあるといえます。
一方通行の単なる商業主義は、もはや人々に受け入れられなくなっています。多様な社会や人々の生活に、ポーズではなく、本当の意味で、どう貢献できるのか? を真剣に考えている企業が、これからもっと尊重されていくような気がしています。
数年前には、JC Penneyというファッションブランドが、母の日のキャンペーンで、レズビアンのカップルで母を表現して話題になり、当然保守派の人達からいろんなバッシングは受けたのですが、我関せずで、父の日のキャンペーンでは、ゲイカップルの父で表現してきたあたり、その徹底振りに、思わず笑ってしまったくらいですが、勿論これも大変な話題になりました。