洗脳 VSメディア・リテラシー②
(U.S. FrontLine誌 2016年11月号 掲載分、一部加筆あり)
前回、この12年間でアメリカのメディアで一番視聴されているFox Newsは、CNN と MSNBC を合わせた以上の視聴者数を誇り、その層の70%弱は、Foxを一番信頼できるニュースソースと考え、他のメディアを全く視聴しない傾向があり、その背後には巧妙な洗脳術があることに触れました。
Fox Newsの実体
運営関係者を見ると一目瞭然で、Foxの元CEOは、歴代の共和党大統領の政治コンサルタントで、現在のトランプ氏の選挙対策委員会(選対)のアドバイザーです。選対本部長も Fox のコメンテーターで、Fox と密接なメディアを運営する人物が選対CEOなど、メディア幹部や関係者が、実は共和党選挙戦略のブレインで固められており、共和党支持、民主党批判の偏向報道ばかりなのは、至極当然なのです。それ故この選挙で、メディア・リテラシーが、どれ程重要であるかを、改めて痛感させられています。
Foxの元CEOは、ディベートコーチの役目が終わる大統領候補最後のディベート当日に、「トランプ氏は人の話の聞く耳をもたなかった」として、選対アドバイザーを降りる宣言をしてはいましたが、いずれにせよ最大の視聴者数を誇るメディアが、特定政党の選対として、自ら率先してサポートしている状況は、冷静に考えると、かなり衝撃的です。
Fox Newsによる洗脳術
分析によると、Fox は大きく「視聴者の隔離」→「敵の創造」→「恐怖による扇動」→「史実の変換」の 4 つを循環させ、その中で様々な洗脳テクニックを駆使しているそうです。
1.「視聴者の隔離」は、洗脳の典型的手法で、Fox 視聴者が外部から情報を得るのを遮断します 。「誤った二分法」により、 例えば「( 敵で偽りの )リベラル / 主流メディアの情報」or(味方であり正しい)Foxの情報 」という究極の2択を迫り、仮にネット上 の情報で、Foxの報道に疑問を感じても、それは“リベラル/主流メディアが、悪意の操作 をしている”、 というようなフレ ーズを、しつこく繰り返し、そう信じ込ませます。
更に仮説や信念を検証する際に、それを支持する情報ばかりを集め、反証する情報を無視、または集めようとしない「確証バイヤス」や、矛盾を抱えた際の不快感を解消する為に、自身の態度や行動を変更する「認知的不協和」の心理と、信仰心も利用し、Foxの主張=正しい信仰に基いた神の主張、Foxを否定=神への否定かのような行為として浸透させているとか。
「認知的不協和」の分かり易い例:
喫煙者にとって、肺癌になりやすいという認知は、自身の行為に矛盾を感じさせるので、喫煙者で長寿の人もいれば、交通事故での死亡率の方が高い、など新たな認知を加えると、矛盾を弱められます。煙草会社の主張は、「喫煙者が肺癌になりやすいのは、煙草が原因ではなく、ストレスを抱える人がそれを和らげるために喫煙しており、肺癌の要因はストレスであり、煙草との因果関係はない。」
2.「敵の創造」は、論理思考を除去するのに都合がよく、家族・国・神を守るFox視聴者は、正直でピュアな善のグループ、リベラル・エリートなど、それ以外は皆悪のグループと規定し、例えばキリスト教はこれらの人々から攻撃を受けているという構図を創り上げます。
本来言える立場にいない側が、自分に言われていることを相手に被せていく「フリッピング」で、例えば黒人の人権保護主張を、逆に白人差別だと非難するなど、問題は相手側にあると片付けたり、警官による黒人射殺事件では、( 白人ならまず撃たれ得ない ) 被害者を、誹謗中傷にて相手の立場の正当性を無くし、無理やり悪者にし立て、“殺されても仕方なかった”と消化したり、少数の行動からグループ全体をネガティブな存在に規定した「スケープゴート」により、例えば“イスラム教徒は皆テロリスト”というように、偏見や敵を確立します。
3.「恐怖による扇動」は、独裁者やカルト教祖が人を支配する上での常套手段です。恐怖は、脳の理性を処理する部位をバイパスして、動物的反応を司る視床下部へ直接伝達される為、理性を失わせた行動をさせるのが特徴です。
例えば“不法移民は犯罪者ばかりで危険”だとか、“職を奪ったり、福祉受給が多く、自分達の生活を脅かしている”という「ステレオタイプ」を増幅させて、不平等や差別も許される根拠へ展開します。(不法移民の犯罪率は特別高くなく、福祉受給割合など実は白人も多く、不法移民に割かれる税財源など数パーセントで、逆に彼らがもたらす経済効果により、社会保障の財源も破綻していないという事実があります。)
4.「史実の変換」も偽情報を流して頻繁に行われ、Fox視聴者には、“オバマ氏はイスラム教徒で、米国生まれではない” “地球温暖化はただの陰謀”などと、本気で信じている人が多いのも、見事な洗脳成果です。
視聴者を恐怖で煽り、戦時中の国民さながらに怯えさせ、理性を奪い、身を守るためと錯覚させるこのやり口は、ナチドイツのナンバー2が「誰も戦争など望まないが、攻撃されかかっているのだと煽り、平和主義者に対しては、愛国心が欠けていると非難すればよい」と言っていたのを思い出して、ぞっとしました。