洗脳 VSメディア・リテラシー①
(U.S. FrontLine誌 2016年10月号 掲載分、一部加筆あり)
アメリカのトップ1%(実質的には0.1%)による富の支配が騒がれるようになってから、随分経ちます。所得格差の是正は、今回の選挙でも1つの争点になっているはずなのに、相変わらず、富裕層や大企業への減税、租税回避の実質的放置、相続税廃止など、本来なら所得格差を拡大させるだけの政策を掲げる共和党ですが、いつも通り支持率で民主党と拮抗しています。トップ1%の方々だけならまだしも、なぜ半数近くも、いつも安定して支持を得られるのか? そこにはあるメディアの秘密が関係しています。
メディアが発する4種の“情報”
仕事柄、マーケッターとして人の心理を分析し、警戒心を解き、効率的に広告やブランドイメージを浸透させることを研究しているだけに、選挙では、逆に人のメディア・リテラシーの低さが恐ろしくなります。メディア・リテラシーとは、『無数の情報メディアを読み解いて必要な情報を引き出し、その真偽を見抜き、活用する能力』です。私たちはメディアを通じて、日々様々な“情報”に触れているわけですが、そこにはどれくらいのプロパガンダが含まれ、洗脳の危機に晒されているのかに言及します。
ジョンズ・ホプキンス大学の、効果的なリサーチを行う為の研究生向けガイドラインによると、情報は、大きく「(本来の)情報」、「プロパガンダ」、「誤報」、「偽情報」の4つに分類されるとのことです。
「情報」の基礎単位はデータで、我々が既に持っている情報に、その新しいデータを足し、分析をすることによって、知識に変えることができる可能性のあるものです。
「プロパガンダ」は、主張者にとって有利に働く、選りすぐられた「情報」データを加え、更に受け手の態度や感情を煽って、深層心理にまで訴え掛け、意図した主張の説得や洗脳を試みる行為です。見分けるにあたり、感情を煽ったり強調されたりした部分をすべて取り除き、「(本来の)情報」だけを抜き出すことは有効です。
「誤報」は、都市伝説的な情報です。見分けるのはとても難しく、自分で様々なソースを見て確かめるしかないのですが、とにかく鵜呑みをしない事が重要です。
「偽情報」は、悪意を持って嘘の情報を作り上げ、それをベースに論理的な説得や洗脳を試みる行為です。見分け方としては、情報を提供している側のバッカーや関係者の国、団体、個人を確認し、その情報が引き起こす心理操作により、誰が得をし、誰が損をするのか? 裏の意図を確認する事で、判断できる可能性があります。
典型的な例では、 “イラクが大量殺戮兵器を持っている”という「偽情報」により、世論も操作して、ブッシュ前大統領によるイラク戦争が開戦され、推定120万人が死亡しました。
洗脳はどの様に成されるのか?
所謂インテリ層と、非インテリ層では、メディアとの向き合い方や活用の仕方が全く異なってきている事が判明しており、インテリ層の場合、様々なメディア(CNN、MSNBC、CBS、ABC、PBS、NBC他)のソースから、幅広く情報を得ているのに対し、非インテリ層は、特定のメディアのみを視聴する傾向が顕著になっています。
その特定メディアは、この12年間で、アメリカにおいて一番視聴されており、CNN とMSNBCを合わせた以上の視聴者数を誇り、今年の共和党予備選の討論会では、240万人もの視聴者数を記録しました。そのメディアとは、Fox Newsです。
Foxの視聴者層は、実に70%弱がFoxを一番信頼できるニュースソースと考えており、(他メディアでは最大でも30%未満)、他のメディアは全く信頼せず見ない傾向が強く、なぜこんな極端な状況になっているのか、実は様々な研究・分析がなされており、聞いてみると巧妙ながら、とても恐ろしい裏の仕掛けがありました。
まずFoxだけを見る様にさせる「視聴者の隔離」ですが、実は洗脳の典型的手法の一つだそうで、この状況を作り出す為に、色んなテクニックが駆使されており、学術的に、「誤った二分法」と呼ばれる、不必要に究極の2択を迫るのもその1つです。
本来なら複雑な問題を、単純化し過ぎることによって、実際には他にも選択肢があるのに、2つの選択肢しか考慮しない思考を生み出します。例えば「Foxという(あなたの味方で正しい)ソースから情報を得るか、他のすべてのリベラル系の(敵で偽りの)ソースから情報を得るか」という選択を迫るわけです。視聴者が外部から情報を得てしまうと、誤報や偽情報が露呈してしまう為、「誤った二分法」による「視聴者の隔離」は、洗脳には不可欠だとか。
その他、「視聴者の隔離」をより強固にさせる、「フレーズの繰り返し」や「認知的不協和」、「確証バイヤス」と呼ばれるテクニックも駆使されており、次回、具体例も交えて、詳細に解説しますが、上記はFoxの洗脳手法のうち、まだ1/4程度の話なので、本当に恐ろしいのです。