中小企業が生き残るには 序章
(U.S. FrontLine誌 2011年5月5日号 掲載分)
前2回にわたり、オンライン市場で中小企業が置かれてい る現状について取り上げました。毎日24時間体制のカスタ マーサービスや無条件の送料無料サービス、無条件返品・ 全額返金ポリシーなど、大手が当然のように提供している サービスが業界の標準としてユーザーに認識されてしまう ことで、中小企業は、とても厳しい戦いを強いられていま す。
「この問題に対する画期的な対抗策は何?」と聞かれても、 正直、絶対的な答えはまだ見つかっていません。1〜2年 というスパンでならばまだ何とか想定できなくもないので すが、その場しのぎであることは否めません。そしてそれ 以前に、世の中の景気が今後さらに冷え込むというアナリ スト達の予測もあります。
実は本稿のテーマは、私の生涯のテーマでもあり、起業理 念にも関係するものです。簡単には語れないので、自分達 がこれまで辿ってきた軌跡や、現在直面している状況も交 えながら、少々長話にお付き合いいただけるとうれしいで す。
我が社を例に
「ACE Inc.は、一体何屋ですか?」と聞かれることがたま にあります。簡単に答えるなら、システム開発とウェブマ ーケティング事業の2つを主軸にしつつ、自社オンライン ショップも運営する会社なのですが、実はこのビジネスモ デルは必然性により生まれました。
本稿を昔からお読みいただいていれば、お気づきになって いるかもしれませんが、私自身がIT・システム関連の話をし ている時と、マーケティング関連の話をしている時があり ます。本来ならは、これらは全く異なる分野なのです。
私個人はキャリアでいうと、間違いなくシステム・エンジ ニアがベースです。以前本誌でウェブマーケティングにつ いて執筆していた、その道のエキスパートであるパートナ ーのレイアが、私の師でもあり、常に最新の情報と現場で の経験値をシェアしてくれており、そこに本来の自分の強 みでもある分析力・論理思考・創造力を加えることで、い つの間にかウェブマーケティングの分野でもそれなりの成 果を出せるようになり、自分でも今の肩書きの説明に困る ことがあります。
今では、アメリカ進出を試みる日系企業の方に、「しては いけないこと・するべきこと」などを偉そうに(笑)語る ことも多くなったのですが、今だから白状しますが、会社 を設立した当初は、技術的な腕にこそ覚えはあれど、ビジ ネスについては無知で、事業計画も稚拙なものでした。
独立前、私は日本の小さなIT会社に勤めていたのですが、 アメリカでの起業を考えるようになり、その会社で半ば無 理やり、アメリカでのシステム開発の仕事を展開させ、自 分のスキルがアメリカでも充分通用することを確認し、独 立しました。事前にある程度顧客ベースを築いてから独立 するのが普通だったのかもしれませんが、自分の本当の実 力・真価を測りたかったのと、顧客を盗んで独立するのは 自分の哲学に反することから、顧客ゼロ、しかも見知らぬ 土地のアメリカで事業をスタートしたのです。
ただし、ビジネスが軌道に乗るまでの収入源としては、IT 会社と会計事務所とコンサルタント会社が組んで、日本の 販売管理システムのパッケージソフトを全国展開するとい う大きなプロジェクトがあり、そのメインの開発を指名さ れていたため、開発費と展開後のサポート費用で当初はラ ンニングすることを想定していました。もちろん、パッケ ージが全国展開することで、開発者として自分の名前も売 っていくことも計算していました。
ところが、プロジェクトの途中で予期せぬ横領事件が起き たのです。残った各社で何とか再開させようと試たものの、 結局プロジェクトは頓挫してしまったのです。ただ、初期 開発は既に終えており、独立したばかりの一番弱い立場で あった私はみなさんから守っていただく形で、ありがたい ことに全額支払いも受け取っており、1年は何とか回すこ とができる金額でした。それでも、その先の継続費用の当 てを完全に失いました。
若かったといえばそれまでですが、今考えれば事業計画と はとても呼べないもので、正直「腕さえあれば何とかなる」 という過信もありました。今では日本のメーカーさんに、 「良いものだから売れるとは限らない」と諭すことがよくあ るのですが、白状すると、私も最初は似たような発想を持 っていたのです。次回に続きます。