2015年12月19日土曜日

TPPについて思うこと ④

(U.S. FrontLine誌 2015年12月20日号 掲載分、一部加筆あり)

日本にとってアメリカとの取引が大半となるTPPは、取り返しが付かないリスクだらけであるにも関わらず、日本政府が推進しようとする理由を理解するために、メリットとして挙げられていることを、前回ほんの少しだけ掘ってみました。

するとGDPが10年間で3.2兆円(年平均200億円程度)増える代償に、農林水産物生産額は、安価な輸入品に市場を奪われるため、3兆円減になるとか、米市場の大半の関税率は既にかなり低いにも関わらず、「輸出企業が関税撤廃により価格競争力が増し、海外進出しやすくなる」など、子供騙しとさえ感じました。

そもそも日本企業の米市場への参入障壁は、関税よりも文化や価値観、言語の違いへの理解・順応力であり、製品企画力やマーケティング力から、韓国など競合に比べ、致命的に劣っているのが問題な上、日本はずっと内需で回ってきた国なので、元々輸出の割合も低く、必要性を考えるとメイクセンスしません。

バッカーを見れば、誰の為かがわかる

選挙の際に、政策の主張をテレビCMなどで流していることがありますが、あれだけで裏の意図まで理解するのは不可能です。CMなので必ず主張者に都合の良い伝え方になっており、実態には程遠いからです。しかし大枠を手っ取り早く理解するには、主張のバッカー(支援者)を見ると簡単で、出資企業や団体を見れば、誰にとって利益があるのかは明白になります。

メディアもまた、ある種のバッカー(広告主や視聴者層)の好む脚色した内容を、ただ垂れ流しているに過ぎず、結果、必ず左右に偏っています。中立風を装っているか、時勢に合わせて、人々が聞きたがっていることに寄せる、風見鶏タイプかのどちらかがほとんどで、予め根底の偏りを きちんと認識した上で、情報を吸収する術を身に付けないと、プロパガンダの餌食になるだけです。

比較的安全に情報を得たければ、数少ない中立ソースを見るのが簡単で、ウィキペディア(Wiki)やアメリカであればfactcheck.orgの様に、両側からの書き込みが許されるものだと、極端な主張が中和され、結果として中立性の高いソースとなります(Wikiは変更履歴が確認できるので、稀にトピックによっては、両側の攻防まで確認できて面白いです)。

TPPのバッカーは誰なのか?

政治は最低でも、10年以上のスパンで見ないと実像は見えてこないと、昔パートナーに教わったことがあるのですが、正にその通りで、wikiを見ていくだけでも、大枠でTPPのバッカーはアメリカだと誰でもわかります。20年くらい前から年次改革要望書、日米経済調和対話などと名称だけ変えながら、日本へ様々な分野での規制緩和など公然と要求を突きつけていた経緯があり、今はそれがTPPという名称になったに過ぎません。

因みに以前の日本の郵政民営化のバッカーは、実はアメリカの保険業界だという暴露本もありましたが、wikiを見れば「簡保を郵便事業から切り離して完全民営化し、全株を市場に売却せよ」と米国保険業界より要求され、協議も重ねられていたとあるように、今回も背後に米国の各産業界がいることくらいの察しはつきます。

Common CauseというNPOのレポートによると、米国の各産業界から、何と昨年だけでも法的に公開義務のあるものだけで、6億5800万ドル(800億円以上)のロビー活動及び賛成議員を当選させるためのキャンペーン費用が投じられていたとか。

出資企業は各種企業系農業団体をはじめ、大口で分かりやすい所では、遺伝子組み換えの種を製造・販売する、悪評高いモンサント(バイオ化学)を始め、エクソンやシェブロン(石油)、ファイザー(製薬会社)、大型チェーンリテールのウォールマートやターゲット(小売)、シティグループ、モルガン・スタンレー、ゴールドマン・サックス(金融)などが名を連ねていますが、彼らは一体何のために、大金を投じていると思いますか?

政府がメリットすらまともに説明できないTPPを推進する理由は、米国産業界からの要求だと考えれば、全て辻褄は合います。

アメリカで失敗が既に証明されていたレーガノミクスのパクリ(アベノミクス)を今更導入したことも、メディアがそれに好意的であったのも、集団的自衛権、特定秘密保護法が制定されたのもしかりで、メディアコントロールで表面化され難いだけで、戦後からの日米関係をwikiなどで辿れば、今も米国の支配下にあるのは明白で、従米政権ほど長寿で逆は短命であったのも、偶然ではなく必然だとわかります。小泉政権で一気に加速した植民地化は、安倍政権で完成となるでしょう。

日本はいまだ植民地であるという真実をひた隠しにし、対等であるかのような振る舞いや、国益のためと称して国民を翻弄し、搾取構造を幇助されるのは受け入れ難いです。TPPの実態は安全保障ともセットの日米関係問題であり、果たして選択肢が与えられているのかも怪しいとはいえ、少なくとも国民に真実が浸透し、簡単に操作されなくなるだけでも抵抗力は段違いです。事実TPPにせよ、唯一まだやめさせることができるのは国民なのですから。

政府のプロパガンダ戦略としては、”もう決まってしまった。”、と強引にでも国民の関心をそぎ、諦めさせるという手法をとっているようにもみえますが、騙されないで欲しいのです。戦後から現在まで、アメリカからの要求に対して日本がとってきた行動を見る限り、まともに抵抗できる立場すらも政府は持ち合わせていないと考える方が現実的ですが、国民が異常な従米政権へダメ出しをすることで、間接的ながら、ようやくアメリカに対する抵抗力を持ち得るのです。

本稿の連載を気がつけば7年間、パートナーの連載時代からは10年、読者の皆様には駄文にお付き合い頂き感謝致します。多忙の為、とりあえず半年間の休載を頂きます。

2015年12月4日金曜日

TPPについて思うこと ③

(U.S. FrontLine誌 2015年12月05日号 掲載分、一部加筆あり)

前2回では、TPPが日本にもたらす未来を知りたければ、今現在のアメリカを見ればよいこと、そして 投資の妨げとみなされる、関税以外の非関税障壁を撤廃させられることでの影響も甚大で、食の安全規制への制約や医薬品・医療費の高騰、公的国民健康保険制度の無効化をはじめ、隠れた様々なリスクを事前に全て把握して、完璧な対策をとるなど不可能であること、更にISD条項という、投資家の損得のみが争点で(例え国民に害があろうが)投資家だけを保護するためだけに存在し、国内法より上で負ければ上告もできない制度の怖さに加え、審議機関も米国寄りでアメリカは無敗、更にはラチェット規定という、一度TPPが始まれば退路は絶たれることなどについて触れました。

要するにアメリカとの取引が大半となるTPPは、想像しきれないほど危険度も高く、取り返しが付かないリスクだらけなのに、それでも日本政府はなぜ推進しているのでしょうか?

メリットは、一体何?

一応、安倍政権の2013年での試算では、TPPにより日本は農林水産物生産額が(安価な輸入品に市場を奪われるため)3兆円減で、経済全体では3.2兆円増でした。政府も認めている通り、数字的にみても、農林水産業に大打撃を与えることは自明で、先進国でも既に致命的に低い自給率を更に下げさせ、被間接支配状況を更に悪化させる見返りとしてのGDP僅か0.2兆円増が、メリットということでしょうか?

ちなみにこれはTPP発効10年後での話なので、年平均僅か200億円増程度でしかなく、それこそ私が昔関わった、中企業の某クライアント1社の年商にすら遠く及ばない額ですから、メリットの前提から既に意味不明なのです。

また「輸出企業が関税撤廃により価格競争力が増し、海外進出しやすくなる」という政府の主張も詭弁で、勿論日本の優れた工業製品などの輸出で、ニッチな分野では多少有効に働くかもしれませんが、そもそも米市場の大半の関税率は既にかなり低い上、日本企業のアメリカ進出案件と多々遭遇してきた経験上から言わせて貰えば、技術力があっても、“値段が高いから売れない”、など単純な話ではないケースがほとんどです。

米市場の参入障壁は関税ではない

米国市場において、日本企業の一番の参入障壁は文化、価値観、言語の違いへの理解・順応力で、製品企画力やマーケティング力からも、韓国をはじめとする競合に比べ致命的に劣っており、結果売れないし、生き残れないのです。製造品、農産物の輸出は更に顕著で、日本製である必要性もなく、BestBuyの主要家電で日本製品を見ることの方が珍しくなったくらいに、市場で負け続けているのはなぜか? ということです。

成功している企業は、正しい市場・需要・ターゲット分析を経た製造企画や、日本のスタンダードが通用しない自覚と異文化への理解や尊重があり、日本側の本社機構も不必要に介入しないなどの特徴が見られます。言葉の問題にしても、日本育ちであれば、英語が堪能であっても、文化的背景をも踏まえた言語的正解を、本来なら理解できるはずもないのですが、積極的にアメリカ社会に入り込んで苦労を重ね、その高いハードルを越える人も中にはいます。しかし残念ながら、こういう企業や人材が本当に少ないのが現実です。

言語の障壁の例外として、逆に1年近く日本語版しかなかったのに、ネコを集めるアプリが、アメリカ人の間でも既にブレイクしていましたが、要はTPPが米国進出の何かを勝手に後押ししてくれるわけではなく、ほとんどの場合、企業側の努力や理解、或いは独自性や創造力などが結局の ところ決め手となるはずです。

TPPに参加する真の動機は?

勿論、リスクのないビジネスなどありませんが、日本の農業を破綻させた上で、医療、保険などを始め、想定不能な広範囲のリスクに晒されるのに見合うリターンが見えてこないのは不可解ですよね? そもそも、日本はこれまでも内需で回っていた国であり、輸出割合も非常に低く、日本政府の公式発表をほんの少し掘っただけでも、辻褄が色々合わないわけで、TPPに参加している真の動機が果たして何なのか、疑問に思いませんか?

次回でこのTPPの話を締め括ると共に、あまりに多忙なため、私の本誌での連載を暫くの間お休みさせて頂きます。今回、IT侍が扱うテーマには不相応だったかもしれませんが、どうかご容赦ください。日本を離れて14年、アメリカに住んだことで、それまで見えていなかった日米の良い点・悪い点に色々と気づくことができました。

ちなみに国として日本の良い、優れている点だと私が実感したのは、所得格差の少なさ(極端な一人勝ちを生みにくい、平均社会構造)、リーズナブルな公的保険を含む健康保険や医薬品、医療制度、終身雇用(従業員の会社へのロイヤリティの高さ)、国内テロが起きる危険性の低さ、食の安全規制、関税による国内産業の保護政策、地域社会の存在などです。

ただ同時に日本の良い点が、年々損なわれていく様も見てきたのですが、TPPはその集大成といえます。さすがに黙っては見ていられなくなり、節目のテーマに選びました。

2015年12月2日水曜日

TPPについて思うこと ①

(U.S. FrontLine誌 2015年11月5日号 掲載分)

TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)の合意がいよいよ近いという報道がされています。TPPについては、ご承知の方も多いかとは思いますが、一応念のため簡単に補足すると、関税の撤廃や、各国の様々な分野での安全基準や規制やルールの統一などにより自由貿易を推進する協定で、シンガポール、ブルネイ、チリ、ニュージーランドの4カ国で始まったのが、アメリカ、オーストラリア、マレーシア、ベトナム、ペルーが加盟交渉国として加わり、更にメキシコ、カナダ、現在は日本も交渉に参加しています。

TPPは対象分野がとにかく広く、農産物や工業品、製造品などの輸出入に留まらず、保険、金融、医療、公共事業、建築、電気通信、投資、知的財産権など、ありとあらゆる分野に関係しているので、貿易協定とはいえ、人々の生活に直接様々な影響を及ぼすことは必至です。それだけに賛否両論があり、現時点でメリット・デメリットを100%証明できる人はいないでしょう。

TPPでこの先日本に起こることは
現在のアメリカを見れば分かる

TPPのメリットとしてよく挙げられるのが、関税の撤廃により衣食住に関わる多くの商品が安く購入できるようになることですが、これはその通りでしょう。但し、もしもそれが例えば日本に現存する八百屋さんやスーパーマーケットに並ぶ食材、あるいは個人経営でやっているような家具屋さんや雑貨屋さん、文房具屋さんなんかに並んでいるものの値段が単に下がるというような想像をされているのなら、近未来の現実的な様相はかなり違っているでしょう。

そう言い切れる根拠は、アメリカの現状を見てきたからです。規制を緩め、積極的に市場を開放していった(自由貿易を推進した)結果、中国製に代表されるような、品質はもとより安全基準なども極めて怪しい安価なものが大量に流入することになりました。

当社で運営しているオンラインショップの新規商材を求めて、ラスベガスの大規模な見本市へ何度か足を運んだことがあるのですが、品数は確かに多いのですが、大半は言葉は悪いですが、本当にゴミ屑のようなものばかりで、消費を煽り続けた国の末路を目の当たりにした気がして、パ ートナーと共にげんなりした経験を何度もしました。

消費者の購入先も大変革を遂げます。近年は生鮮食品をも扱い大型グロスリーストアを脅かしているアマゾン、ウォルマートやターゲット、あるいはステープルズやホームデポなんかをイメージして頂ければ簡単でしょう。

大手リテールストアは、徹底したサプライチェーン・マネジメントに加え、売れ筋は自前で製造して供給できるようにし、圧倒的な価格のアドバンテージを築き、市場に価格破壊を起こし、その強靭な企業体力を武器に、買収も重ねながら、相手を潰す目的で採算割れ需要無視で競合エリ アへ過剰に出店し(相手を飛ばした後は、自社も閉じるか価格を吊り上げ)、スモールからミッドビジネスなどあっさりと淘汰していきました。

関税撤廃で輸入が促進され、国内の製造業がダメージを食らう位までは日本の人達も想像できていると思いますが、販売・流通構造も、今のアメリカのように完全に塗り替えられることも覚悟すべきです。

極端な淘汰で失業率も増え、生き残るのは利益性、合理性をひたすら追求する超大手のみで、その劣悪な労働環境は、ワーキングプアと呼ばれる人達を大量に生み出し、この層がまた安価なものを消費して支えていくわけですが、そもそも“安く大量に消費するのが素敵なこと”というのも、 消費を必要とする大手の洗脳作戦でした。

経済誌も盛んに「モノが安く手に入る」とTPPのメリットを語るのも、彼らの母体や広告主を考えれば当然の主張なわけですが、消費者を欺くチープなプロパガンダですね。

要はアメリカ化の国際市場展開の話

結局のところTPPは、多国籍の大手企業関連の超富裕層(俗に言う投資家や経営者など所得水準的にトップ1%)によるアメリカ国内の支配を、日本を含めた世界市場へ拡大をさせる、いわば経済植民地化の動き以外の何者でもないわけで、彼らにとっては多大なメリットで、国家的には何 か数値的に多少ポジティブに働くかもしれませんが、99%の一般市民にとっては、搾取される生活環境が更に悪化するだけだと、アメリカを知っていれば容易に予測できます。

無意味にひたすら消費を煽り続けながら、一方でそれを販売する大型店舗側も、安価で都合の良い労働力を得て、本当に一握りのトップのみが莫大な利益を継続的に得るという搾取構造を、私は経済植民地化と呼んでいます。

なお本稿の基本テーマと何の関係が?と思われそうですが、私が仕事上で経験してきたことで、TPPの実像の理解に役立つ部分があり、実際にアメリカで生活している方々なら、ご理解頂けることも多々あると期待しています。

TPPについて思うこと ②

(U.S. FrontLine誌 2015年11月20日号 掲載分、一部加筆あり)

前回TPPが日本にもたらす未来を知りたければ、今現在のアメリカを見ればよいこと、そして農産物や工業品、製造品などの輸出入に留まらず、保険、金融、医療、公共事業、建築、電気通信、投資、知的財産権など、ありとあらゆる分野に影響するTPPは、“関税の撤廃で消費者は安くモノが買えてハッピー”というような単純な話ではなく、トップ1%の富裕層のアメリカ国内支配で実践してきたビジネスモデルを、日本を含めた世界市場に展開させようとする動きそのものであり、流通するモノ自体の危うさに加え、流通・販売構造をも大変革させ、スモール、ミッドビジネスをあっという間に淘汰した後、一部の超大手に市場を占められるようになるのを覚悟する必要があることについて、お話ししました。

非課税障壁も狙われる

関税以外にも、市場への参入障壁となるものはすべて、自由貿易推進が原則のTPPでは狙われることになり、こちらの影響も甚大で、例えば日本では現在義務付けられている「遺伝子組み換え」の表示も、販売上(日本市場参入のために投資した側には)不都合に働くという理由で、規制を撤廃させられるか、あるいは今後そういった国民の安全を考えた規制を強化した場合に、投資家の参入障壁になったとして、国が損害賠償請求される可能性などは有名な話です。

医療制度・環境への影響も深刻で、懸念が色々ある中、まずは医薬品の価格が上がります。日本の場合、今までは国が価格を決定する制度だったため、リーズナブルな価格で提供できていましたが、これは製薬会社にとって多大な参入障壁ですから、制度変更させられるわけです。

製薬会社はTPPによる知的財産権条項も武器に、安いジェネリック医薬品を締め出し、好き勝手に値段を上げられるので、いきなり50倍になるとか、現在のアメリカで現実に起きていることが起こり得るのです。

また薬代の高騰で、今でも財政難の国民健康保険(公的保険)ではカバーできなくなり、(現在まではほとんど認められていなかった)保険適用内・外の併用診療と営利企業の医療機関経営の解禁から、医療費も高騰し、公的保険の適用範囲を限定的にし、それ自体の有効性を奪い、民間保険の需要を増大させるというシナリオが浮かびます。

これもアメリカの現状そのもので、最終的にお金のある人のみが、高額の保険料と治療費と引き換えに、まともな医療を受けられるという世界へ突入させられることになります。

ポイントは、こんな例など氷山の一角でしかなく、こういったリスクをすべて事前に把握し、交渉上で万全な策を練るなど不可能であり、例えばファイヤウォールのポート全開で一部フィルタを足して安全と謳うようなものです。(どこのポートが攻撃されるなど予測不可能なので、本来はポートを一旦全部閉じた上で、必要なポートだけを限定的に開けるのが、セキュリティ上での鉄則といえます。)

投資家の損得だけがすべてのISD条項

TPPの巨大リスクで有名なのが、ISD条項(InvestorStateDispute Settlement)やラチェット規定ですが、ISD条項は、投資家と国との紛争を、世界銀行内の機関である国際投資紛争解決センター(ICSID)で裁くというものです。

この機関は、最高裁より上位で国内法をも飛び越える存在で、例え国益のための政府の政策であっても、争点はあくまでも投資家がどういう経緯で損失を被ったのかでしかなく、国民ではなく投資家のためだけに存在するISD条項は、主権の侵害になると言われています。例えば、脱原発を発表したドイツが、海外の投資企業に提訴され、多額の和解金を支払わされたのは記憶に新しい話です。

ラチェット規定は、後戻りを許さないために、仮に一度開いた市場を縮小しようものなら、多大な賠償で賄わせる等、現実的にそういうオプションを絶つものです。

百戦錬磨の相手に丸腰?

世界銀行は、出資額の多いアメリカが一番影響力を持っており、総裁も米国出身者からという慣例で、その機関内のICSIDも勿論米国寄りで、最初から中立ではなく、上訴制度もない上、密室裁判となります。事実として、これまでISD条項でアメリカが訴えられて、負けたことはないとか。

これに対する安倍政権の答弁で愕然としたのが、「過去に各国との貿易協定でISD条項はあったが、日本が訴えられたことがない」という論旨です。訴訟もないだろうから契約内容など重要ではないとでも言いたいのでしょうか?

元々何らかの信頼関係があるから商談があり、それでも想定外の訴訟に備えて契約書が存在するわけで、昔よく聞いたような、契約書もなく数億円のシステムを発注して、後で泣き寝入りしているダメ日本企業を彷彿させられました。

また本来ISD条項は、法整備の甘い発展途上国との取引で、自国の投資家を守るためのもので、本ケースは訴訟大国アメリカとの取引がメイン。日本企業の米市場進出サポートでたまに遭遇する、日本流儀が通用するという幻想を抱いたやば~い案件と被ります。百戦錬磨の相手に未経験者が丸腰でどんな戦いができるというのか…(続く)