2016年6月23日木曜日

クラウドファンディングとバイラル

(U.S. FrontLine誌 2015年09月20日号 掲載分)

クラウドファンディングという用語を聞くようになってからしばらく経ちます。群衆(crowd)と資金調達(funding)を組み合わせた造語で、要は不特定多数の人から、インターネットなどを通じて、個人や組織が資金提供や支援などを得る行為を指します。資金調達を実現する場、つまり群衆とプロジェクト立案者を引き合わせるプラットホームとしては、kickstarterやindiegogoなどが有名です。

多額の資金が必要な製品開発やイベント開催でも、ネットを通じて、不特定多数の人に、比較的低額な出資を呼び掛け、一定額が集まった時点で、プロジェクトを開始させることが可能になり、資金調達のハードルがかなり下がったことや、アイデアによっては、不特定多数の人の目に、プロジェクトの本格展開前から露出でき、バイラル(口コミ)になることもあり、銀行やベンチャーキャピタルには相手にされないようなスタートアップ企業やクリエーターでも、容易に起業でき、成功できるチャンスが広がったと言えます。

クラウドファンディングには、資金提供者に対するリターン(見返り)のタイプが大きく3つあり、寄付、投資、購入(プロジェクトが提供する何らかの権利や、物品を購入することで支援を行う)に分けられます。その中でも寄付のタイプは、寄付額によってさまざまな特典を与えるものがあり、中にはそのユニークさやユーモアだけで、時々バイラルになることがあります。

昨年、こういうアイデアと実践力をもっと自分も持つべきだなぁと陰ながら自省させられた、ある有名なバイラルになったネタというか、”プロジェクト”があります。ご存知の方も多いかもしれませんが、一応ご紹介しておきます。

プロジェクト名は「ポテトサラダ」

ザック“デンジャー”ブラウンと名乗る人物が、kickstarterにて立ち上げたこのプロジェクト、中身は、これだけです。「Basically I'm just making potato salad. I haven't decided what kind yet.」(基本的には、ただポテトサラダを作る。まだ種類は決めてないけど)。

通常なら、資金調達のための広告代理店が制作するプレゼン用動画などがくるのですが、基本はテキストだけでした。

用意された報酬としては、1ドルの寄付で、彼のウェブサイトに名前が掲載され、調理時に名前を大声で呼んでもらえ、2ドルの寄付で、(上記に加え)調理風景を撮影した写真が貰え、3ドルなら、(上記に加え)ポテトサラダを少量送ってくれるとか。5ドルなら、(上記に加え)希望食材をサラダに加えてくれて、10ドルなら、(上記に加え)実際の調理場へ見学に行けるなど、とにかくネタとしか思えないものばかりでした。しかしこれがネットユーザーには受けて、大変な反響を呼びました。

当初の目標額は10ドルでした。それに対して、反響を得ると共に報酬内容も多少スケールアップさせていきましたが、最終的には6911人のバッカーズ(支援者)を募り、実に5万5492ドルを獲得したのです。もちろん、いろんなメディアにも取り上げられ、大きなバイラルになったのも大きかったにせよ、繰り返しますが、これはある無名の個人が、ただポテトサラダ作りに初めて挑戦するというだけの話でした(笑)。最終的にブラウン氏は、ポテトの一大イベントを開催し、イベント収益や既に得ていた2万ドル近くをチャリティーに寄付したそうです。

実際の「ポテトサラダ」のページはこちら>>

国の破産をも救える?

最近で言えば、15億4000万ユーロの債務を抱えて返済期限が迫っていたギリシャの財政破綻が話題になっていましたが、あるイギリス人男性が、やはりクラウドファンディングでギリシャを救おうと、indiegogoにて、「Greek Bailout Fund(ギリシャ破綻救済基金)」というプロジェクトを立ち上げ、寄付を募っていたのが話題になりました。

目標額は16億ユーロで、報酬は、3ユーロでギリシャ首相からのポストカード、6ユーロでフェタチーズとオリーブのサラダ、10ユーロでウーゾ(ギリシャのお酒)の引換券、25ユーロでギリシャワインなどの引換券を、160ユーロでギリシャ特産品の詰め合わせを、送料別で送るとか。5000ユーロならギリシャのペア旅行、100万ユーロなら、ヨーロッパ市民、特にギリシャ市民からのありがとうだそうです。

彼の主張としては、16億ユーロは高額に感じるかもしれないが、ヨーロッパの全員が、1人3ユーロでも寄付すれば到達できるそうで、3ユーロと言えば、イギリスでビールグラス半分の値段でしかないという発想で、事実、8日間で何と10万8654人もの寄付を募り、193万577ユーロも集めたそうです。

結局、この試みは目標額には届かず、返金したようです。今のネット時代は賛否両論あるとは思いますが、クラウドと適切に作用することで、健全かつ有益な活動のチャンスが生まれたことは、素晴らしいことだと思います。

実際の「ギリシャ破綻救済基金」のページはこちら>>

2016年6月8日水曜日

眼鏡業界のNetflix

(U.S. FrontLine誌 2015年10月5日号 掲載分)

ワービーパーカーという眼鏡ブランドをご存知でしょうか? と言っても、実は私は生まれつき視力はかなり良い方だったので、こんなコンピュータを多用する仕事にかれこれ18年くらい就いていますが、眼鏡を必要とするほど視力が衰えることもなく、利用する機会も皆無でした。しかし、このブランドは別の意味で超有名です。かつて本稿でZappos(第 52回)や Dollar Shave Club(第 137 ~ 139回)について触れたことがありましたが、それらに匹敵するくらい、業界に衝撃を与えたと思っています。

マーケティング業界においては、ご存知の方ばかりかと思いますし、周知の方からすれば何を今更と言われそうですが、今年の5月に、ビジネス雑誌のファスト・カンパニーが選ぶ 2015 年の「最も革新的な企業ランキング」で、アップルやグーグルなどを抑えて1位に輝いたとして、記事に取り上げられていたのが、何をかくそうこのワービーパーカーなのです。

ウォートン・ビジネススクールの学生4人が、在学中に立ち上げたワービーパーカーは、創設わずか5年ながら、急速な成長を遂げており、ファスト・カンパニー誌によれば、年間売上は1億ドルを超えているそうです。Wiki によると、ブランド立ち上げからほどなくして VOGUE 誌に取りあげられ、GQ 誌においては眼鏡業界の Netflix(レンタルビデオ業界を激変させた革命児)とまで言われていたそうで、翌年には 1500万ドルの出資を集め、従業員 60人だったのが、翌年には 113人に増え、今年 5月の段階では企業価値が 12億ドルにまでなっているようです。

95ドルの眼鏡

アメリカにおいて眼鏡の平均価格は 263 ドル、ファッションブランドだと 500 ドル以上もするとか。ワービーパーカーは、眼鏡をリーズナブルな価格(95 ドル)からオンライン販売し、業界のスタンダードを塗り替えました。

創業者の一人がタイ旅行で、プラダの眼鏡を飛行機に忘れ、置き忘れたことと同時に、「何で 700 ドルも眼鏡に使っていたんだ?」と後悔し、その後 iPhone を購入した際に再び、「こんな凄い技術の iPhone が 200 ドルなのに、数百年間も同じ技術の眼鏡の方が高いのはなぜか?」と思ったのがきっかけで、他のクラスメートとともに、眼鏡の価格引下げの可能性を模索したそうです。

眼鏡業界は、イタリアに本拠地を置く多国籍企業のLuxottica 社に代表される、少数の超大手企業に、サプライチェーンをすべて掌握されており、彼らがデザインや製造を行いつつ、ハイエンドのファッションブランドには名前使用のライセンス料を払い、眼鏡店に卸しているらしく、眼鏡店側も自身のマージンをかなり乗せているため、最終的に消費者に届く頃には 500 ドル以上になっているということです。

そこでワービーパーカーは、自社でデザインし、中間業者による流通ではなく、オンラインによる直接販売を行うことで、95ドルという販売価格を実現したようです。

眼鏡のオンライン販売は
成立しないという定説を覆す

ただ何度も「眼鏡のオンライン販売が成り立つなら、誰かがとっくにやっているはずだ」と聞かされたそうです。要するに自分で試着してみないと、という物理店舗必要論が根強かったのだと思いますが、この手の“論”は過去何度も色んな業界で覆されてきたものですね。

ワービーパーカーは、「HOME TRY-ON(お家でお試しサービス)」として、ネット上で選んだ5種類のフレームのサンプルを届け、お試し期間5日間を提供するという仕組みをとっています。しかもこのコンセプトが優れているのは、何も購入前の安心感、顧客満足度の向上だけではありません。届いたサンプルで自分の顔写真を撮り、どれが似合うかを、SNS上で周りに尋ねる行為がブームになったのです。今のネット時代ならではの、バイラル(口コミ)を最大限に活用し、露出・集客を図ることは、非常に的を射ていたといえるでしょう。

またサイト上のツールで、レンズ調節で必要な瞳孔間距離を測ることもできるようです。おそらく通常の眼鏡店舗に備わっているものの代替案ですかね。

ただ今ではアメリカ全土で実店舗も展開しています。と言っても、実店舗はショールームという位置づけでしかなく、在庫も置かず、あくまでも体験の場として、注文はオンラインで、というスタンスは変わらず、来店して店内のサンプルを試着し、検眼などの後、店のPCを使ってその場でネット注文を入れることになるとか。

店舗のコンセプトも、在庫がなく店舗面積を通常の眼鏡店の約半分にできるため、ビルの 2階にあるなど、店舗の運営費を抑えることに主眼を置いているようです。

また眼鏡の売上に対して、毎月途上国のために NPOパートナー(途上国に、検眼や眼鏡販売のトレーニングをしている団体)に寄付しており、今流のベンチャーの社会貢献性も訴求していました。