アメリカのネットの中立性 ②

(U.S. FrontLine誌 2015年04月05日号 掲載分、一部加筆・編集あり)

前回、ほとんどの人に影響するにも関わらず、もしかしたら一般にはあまり馴染みのない「ネットの中立性」という問題について触れました。

インターネットサービスプロバイダー(ISP)が、自社のサービスに競合するなど、何らかの独断的理由により、特定のサイトをブロックして、ユーザーが見られなくするようにフィルタしたり、回線速度を意図的に調節して、ページがなかなかロードされ難くしたり、特定のサイトやコンテンツ、サービスに対して、意図的に速い回線と遅い回線を設け、速い回線を利用するには、別途追加料金を、例えばNetflixやAmazonなどコンテンツ配信業者から徴収するような行為を認めるか否か、というような議論についてです。

ネットの中立性が維持できなくなれば、今まで無料で快適に見られた動画が、将来的には有料が標準になる、また資本力のない企業は、今後どんな画期的なコンテンツを用意できても、ISPに◯◯を握られ、大成功はもうできなくなる可能性も秘めています。

そしてアメリカ連邦通信委員会 (FCC)が、この問題を管轄する独立機関になるのですが、「ネットの中立性」を維持するために規制を強めていったものの、通信業者が逆に反発して提訴し、裁判では結局、通信業者の主張が認められるような形となりました。

それを受けて、「ネットの中立性は死んだ」と、一部のユーザーの間で悲壮感が漂い、「ネットの中立性」の推進派であるオバマ氏を批判する動きまで出ていたのですが、まったくもってナンセンスな話でした。なぜなら、「ネットの中立性」に反対しているのは、主に通信業者や共和党だからです。

結果に不服なら責めるべきは誰か?

大企業が主な政治献金源であり、また議員自身も大手企業の株主であるような共和党が、規制緩和、自由競争主義という建前で、既得権者の独占を維持しやすいように通信業者側につくのは、当然予想できることなのですが、むしろそれと戦っているのが民主党のオバマ政権でした。

またFCCも裁判所も独立機関であり、政府には直接的な強制力がありません。FCCは任期満了に満たさない者を除き、5年ごとに大統領により任命し、上院によって承認された5人の委員によって管理されており、5人中3人までは同じ政党の所属であってもよいそうです。また最高裁の判事ともなると、大統領が上院の助言と同意に基づいて任命し、本人が死去または自ら引退するまでが任期となります。

当然、その時の政権の意向を通しやすそうな人が任命されているわけですから、間接的に国民が任命しているようなもので、特に最高裁判事などは過去の政権時に任命されている可能性の方が高いことも覚えておくべきでしょう。そしてこのケースで、少なくともFCCは、中立性を維持する動きを取ろうとしており、そもそも責めるべき相手が違うのです。

「タイトルⅡ」という区分に

なお電話などは、FCCにより「公共サービス」として「タイトルⅡ」という区分に分類され、「通信の中立性」が維持されるよう、法規制されているそうです。昨年の裁判でFCCの決定をひっくり返されたのも、インターネット(ブロードバンド)は「タイトルⅠ」に分類されているため、「タイトルⅡ」で適用されるような法規制は不適切、との見方からでした。

で、実は2月26日にFCCは、ISPはコモンキャリアとして「タイトルⅡ」に分類する決定を下しました。これにより、「ネットの中立性」を維持するための法規制がかなり厳格に適用できることになります。賛成派の私からすれば、これで安堵の胸を撫で下ろしているかと言えば、いえいえ、単に第一歩を踏み出したに過ぎないと思っています。

先に書いたとおり、FCCは政権の意向を間接的に反映するため、例えばブッシュ共和党政権下では、ブロードバンド・サービスを通常の電話サービスと区別し、規制を撤廃する動きをとっていました。つまり共和党が政権を獲れば、再度根底からひっくり返してくる可能性が高く、今後も、どうにでも転び得る話だからです。

補足:このコラムを書いていた頃から約2年半以上経ち、今は現トランプ政権になったわけですが、残念ながら私が危惧したとおりになってしまいました。この投稿を公開いしている正に今、「Net Neutrality」を破壊する動きが施行されてしまいました。

また「ネットの中立性」問題の一番やっかいなところは、その地味さとピンとこなさです。冒頭で書いた通り、ほとんどの人に影響するにも関わらず、あまり馴染みがなく、人々にはほとんど関心が持たれていないことです。ただ、実はあるコメディアンが、ケーブルテレビ局のある番組中で、たった13分間だけでしたが、この問題を取り上げました。それが見事にバイラルになり、FCCのサイトへアクセスが殺到してサイトをダウンさせるといった出来事があり、世間に脚光を浴びさせたことで、今回のFCCの採決に拍車を掛けた可能性もあります。

次回はこの問題にまつわり、周辺で起きていた、このバイラルも含めた面白い事象を少し取りあげるつもりです。

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