2016年6月8日水曜日

眼鏡業界のNetflix

(U.S. FrontLine誌 2015年10月5日号 掲載分)

ワービーパーカーという眼鏡ブランドをご存知でしょうか? と言っても、実は私は生まれつき視力はかなり良い方だったので、こんなコンピュータを多用する仕事にかれこれ18年くらい就いていますが、眼鏡を必要とするほど視力が衰えることもなく、利用する機会も皆無でした。しかし、このブランドは別の意味で超有名です。かつて本稿でZappos(第 52回)や Dollar Shave Club(第 137 ~ 139回)について触れたことがありましたが、それらに匹敵するくらい、業界に衝撃を与えたと思っています。

マーケティング業界においては、ご存知の方ばかりかと思いますし、周知の方からすれば何を今更と言われそうですが、今年の5月に、ビジネス雑誌のファスト・カンパニーが選ぶ 2015 年の「最も革新的な企業ランキング」で、アップルやグーグルなどを抑えて1位に輝いたとして、記事に取り上げられていたのが、何をかくそうこのワービーパーカーなのです。

ウォートン・ビジネススクールの学生4人が、在学中に立ち上げたワービーパーカーは、創設わずか5年ながら、急速な成長を遂げており、ファスト・カンパニー誌によれば、年間売上は1億ドルを超えているそうです。Wiki によると、ブランド立ち上げからほどなくして VOGUE 誌に取りあげられ、GQ 誌においては眼鏡業界の Netflix(レンタルビデオ業界を激変させた革命児)とまで言われていたそうで、翌年には 1500万ドルの出資を集め、従業員 60人だったのが、翌年には 113人に増え、今年 5月の段階では企業価値が 12億ドルにまでなっているようです。

95ドルの眼鏡

アメリカにおいて眼鏡の平均価格は 263 ドル、ファッションブランドだと 500 ドル以上もするとか。ワービーパーカーは、眼鏡をリーズナブルな価格(95 ドル)からオンライン販売し、業界のスタンダードを塗り替えました。

創業者の一人がタイ旅行で、プラダの眼鏡を飛行機に忘れ、置き忘れたことと同時に、「何で 700 ドルも眼鏡に使っていたんだ?」と後悔し、その後 iPhone を購入した際に再び、「こんな凄い技術の iPhone が 200 ドルなのに、数百年間も同じ技術の眼鏡の方が高いのはなぜか?」と思ったのがきっかけで、他のクラスメートとともに、眼鏡の価格引下げの可能性を模索したそうです。

眼鏡業界は、イタリアに本拠地を置く多国籍企業のLuxottica 社に代表される、少数の超大手企業に、サプライチェーンをすべて掌握されており、彼らがデザインや製造を行いつつ、ハイエンドのファッションブランドには名前使用のライセンス料を払い、眼鏡店に卸しているらしく、眼鏡店側も自身のマージンをかなり乗せているため、最終的に消費者に届く頃には 500 ドル以上になっているということです。

そこでワービーパーカーは、自社でデザインし、中間業者による流通ではなく、オンラインによる直接販売を行うことで、95ドルという販売価格を実現したようです。

眼鏡のオンライン販売は
成立しないという定説を覆す

ただ何度も「眼鏡のオンライン販売が成り立つなら、誰かがとっくにやっているはずだ」と聞かされたそうです。要するに自分で試着してみないと、という物理店舗必要論が根強かったのだと思いますが、この手の“論”は過去何度も色んな業界で覆されてきたものですね。

ワービーパーカーは、「HOME TRY-ON(お家でお試しサービス)」として、ネット上で選んだ5種類のフレームのサンプルを届け、お試し期間5日間を提供するという仕組みをとっています。しかもこのコンセプトが優れているのは、何も購入前の安心感、顧客満足度の向上だけではありません。届いたサンプルで自分の顔写真を撮り、どれが似合うかを、SNS上で周りに尋ねる行為がブームになったのです。今のネット時代ならではの、バイラル(口コミ)を最大限に活用し、露出・集客を図ることは、非常に的を射ていたといえるでしょう。

またサイト上のツールで、レンズ調節で必要な瞳孔間距離を測ることもできるようです。おそらく通常の眼鏡店舗に備わっているものの代替案ですかね。

ただ今ではアメリカ全土で実店舗も展開しています。と言っても、実店舗はショールームという位置づけでしかなく、在庫も置かず、あくまでも体験の場として、注文はオンラインで、というスタンスは変わらず、来店して店内のサンプルを試着し、検眼などの後、店のPCを使ってその場でネット注文を入れることになるとか。

店舗のコンセプトも、在庫がなく店舗面積を通常の眼鏡店の約半分にできるため、ビルの 2階にあるなど、店舗の運営費を抑えることに主眼を置いているようです。

また眼鏡の売上に対して、毎月途上国のために NPOパートナー(途上国に、検眼や眼鏡販売のトレーニングをしている団体)に寄付しており、今流のベンチャーの社会貢献性も訴求していました。

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