2015年7月27日月曜日

日本ブランド衰退の理由⑥ まとめ

(U.S. FrontLine誌 2013年6月5日号 掲載分)

今では完全に当たり前となった全自動のドラム式洗濯・乾 燥機ですが、アメリカ市場においては、2001年にワールプ ール社が発売したデュエットという製品が、それまでの平 均価格の4倍以上だったにも関わらず、生産が追いつかな いくらいの大ヒットを記録して以来、市民権を得ていった ようです。本シリーズで数回にわたり取り上げてきた、女 性ランジェリーブランドのビクトリアズ・シークレット (VS)の成功例ともいくつか共通していて興味深いです。

固定概念を破る

当時のアメリカの消費者は、前面より上面から衣類を出し 入れする構造を好むという調査結果があり、前面ドア式の 洗濯機はあまり受けないと考えられていたそうです。ただ ヨーロッパではむしろこのタイプが人気だったようで、VS のケースと同様に、まだ市場に浸透していなかった概念・ 製品を持ち込んだわけです。

同じく市場調査より、家電製品は心理的な理由では購入さ れないとみなされていて、通常、ライフサイクルが12〜14 年もある洗濯機を、消費者が故障前に買い替える、という 発想自体もなかったようです。

消費者に本当にメリットとなる商品力

従来のものに比べ、容量が2倍あり、洗浄力の違いも目で 分かり、ドラムの中心に回転翼がないので衣類にやさしく、 省エネで使用水量・漂白剤も少なくて済み、前面ドアなの で洗濯物の出し入れがしやすく、洗濯機と乾燥機を横にも 縦にも並べられます。また洗濯と乾燥の時間的サイクルを 合わせることで、効率的に作業でき、時間を有効に使える など、明確な違い、実利的メリットが多数ありました。

心理面での結びつき

アンケート結果から、このデュエットという洗濯・乾燥機 のユーザーたちは、同製品に対して、「愛してる」「家族や友 人のよう」「誇りと喜び」といったさまざまな感情を持ってい ることが分かりました。ある空調の修理屋さんは、顧客で ある個人宅を仕事でまわる際に、もしも洗濯機が古くなって いれば、自然とこの愛するデュエットをお勧めしていたそう で、それこそ1時間くらいは話が止まらなかったといいます。

中間は淘汰される

勿論、洗濯機に強い思い入れのない層は、むしろ低価格の ものを購入するという動きがあり、思い入れの強い層が購 入するワンランク上の価格帯と、低価格帯の商品がよく売 れ、中間の商品が売れなくなるという、ほかの商品カテゴ リーと同様の、市場の二極化が進んでいるようです。

本シリーズの冒頭で、「特徴のないブランドはいずれ淘汰 される」とお話ししましたが、逆に「特徴のあるブランドは熱 狂的なファンベースを築けている」ともいえます。そのバロ メータの1つが、例えば上記のようにユーザーから「このブ ランドを愛している」というような感情表現を引き出せてい るか? ということです。これが大きな鍵になると考えられ、 我が社もクライアントのブランディングの案件において、特 に最近注力している部分でもあります。ちなみにVSでも熱 烈なファンになったユーザーの話が紹介されていました。

まとめ

製品のライフサイクルが長く、価格が比較的高い程、故障 前の買い替えについて、販売者側は消極的な考えを持つ傾 向にあると思います。それはある意味で正論かもしれませ んが、今日の「ワンランク上の消費行動」という流れに乗 れない(乗らないと決めた)場合、生き残るには低価格競 争の道しかなくなっていくように思います。果たしてそれ で中国・韓国ブランドとまともに戦っていけるのか? と いうのが、第一の課題でしょう。

モノが売れる・売れないは、必ずしも価格で決まるのでは なく、消費者心理を掴み、納得させられるようなベネフィッ トを提供できているかどうかで、価値判断されているのです。 顧客を甘く見ず、正面から向きあって正しく分析し、固定 概念にとらわれず、顧客に本当にメリットがあり、差別化 された商品を開発・提供することに努める。そして常に挑 戦し続けながら妥当な潜在市場を見据えたビジョン・ゴー ルを持ち、それを実現するためにブランディングを行い、 最終的に強いブランド・ロイヤルティーを持つファンベー スを構築する。それができれば、低価格競争に巻き込まれ ることなく、高くても大量に売れるというビッグビジネス を展開できる、ということです。

もともと本シリーズでご紹介した内容は、10年くらい前 にアメリカの消費者行動について書かれた本がベースでし たが、私的にはなぜ今、日本ブランドがいろんな市場で衰 退していっているのかを、結果的にうまく説明してくれて いるように感じたため、このようなタイトルで書かせてい ただきました。何かの参考にでもなれば幸いです。

もっと詳しくブランディングが必要な理由について知りたい方はこちらも参照ください: ブランディングについて

2015年7月22日水曜日

日本ブランド衰退の理由⑤ ブランディング

(U.S. FrontLine誌 2013年4月20日号 掲載分)

[もっと詳しくブランディングについて知りたい方はこちらも参照ください: ブランディングとは?]

前回、消費者に本当のベネフィットを提供する商品・サー ビスでなければ、成功できるレベルに限界があることを、 女性ランジェリーのブランドで有名なヴィクトリアズ・シ ークレット(VS)を例に取り上げました。

ヨーロッパのようにランジェリーを日常的に身に着ける文 化がまだアメリカには浸透していなかった中で、消費者の ニーズと欲求を満たす、差別化された商品を快適な買い物 空間と共に提供することで、見事に消費革命を起こすこと に成功したのでした。

ブランディングで地位を確立

まだ消費者は週7日ではなく、週末のみランジェリーを身 に着けるという1995年ごろのプチ成功の時代では、VSは カタログでの販売が売上の約1/3を占めていました。 特に広告も打たず、各店舗もセールの張り紙をしたり、カ タログに販促物を同封したりする程度で、共通できている のは伝説とブランド名くらい。マーケティング戦略もバラ バラ、独立した事業体の寄せ集めといった感じで、ブラン ディング(ブランドの露出機会を増やし、イメージを浸 透・洗脳させて、ブランドの競争力を高める)を行ってい るというには程遠いものでした。それでも当時は、うまく いっていると思っていたそうです。

しかしそのままではどうしても「週末のみのランジェリー」 の壁を破れず、前回書いたような本当の商品力を備えた商 品を1999年に開発して、はじめて本当の大成功をおさめた のです。その後も攻めの姿勢は崩さず、2001年には魅力あ るさらなる新商品を開発しました。さらに、世界一流のカ メラマンと映画監督を起用してテレビキャンペーンを製作 し、スーパーモデルによるファッションショーを収録した 番組をゴールデンタイムに放送、1200万人以上に視聴させ るなど、本格的なブランディングも展開し、現在の地位を 築いていったわけです。

「VSは単に広告宣伝にお金を掛けたから成功した」と勘違 いされたくなかったので、前回から「商品力」の重要性に フォーカスしてきましたが、もちろん、あるレベル以上の 成功には商品力だけではどうにもならない世界があります。

“ある程度うまくいっている”がネックに

VSのケースで出てくるこの「バラバラで展開」「ある程度 うまくいっている」という表現は、実はわれわれには非常 になじみがあるもので、これまでにもかなりの頻度で耳に してきました。


例えば、紙面広告、オンライン広告、トレードショー、PR などバラバラで展開(複数の業者で担当)し、ブランド・ コンセプトの共有も成されていないとか、各支店で全く別 のマーケティング戦略をとっている、といった具合です。 (ちなみにブランド・コンセプトを複数の業者で共有して いくには、ある一定以上のマーケティングにおける知識・ 理解がないと困難を極めますが、今この話はスルーしてお きます)。

それでもある程度の売上が確保でき、運営できているので、 社内的には“うまくいっている”という認識になっており、 ブランディングの必要性など説こうとしても、危機意識も低 いので、なかなか理解されないのです。それこそ広告もそ んなに活用せずに大きくなれたような企業はなおさらです。 ただそういう企業であっても、少なくともこれまでわが社 が接してきたケースを少しでも分析してみると、決してブ ランディングが不要になっていたわけではないことが分か ります。こういった企業は例外なく、競合が少なかった時 代に差別化された商品やサービスを提供しており、広告を 使わなくとも口コミも含め、メディアに取り上げられるな ど、何らかの形で露出があり、長い年月の間に幸運にもブ ランディングされてきているのです。

ところがそういった背景意識がない上で、新しい市場へ新 商品・サービスを展開しようとするから、簡単に同じよう にはいかないことに、今更ながら驚いているわけです。

結局はトップのビジョン次第

もちろん、広告など打たなくとも、ブランディングも考慮 しなくとも、ある程度の売上が得られ、それで納得するの であれば、安定・安泰であるかはともかく、それも1つの 選択肢といえます。

VSのオーナーの場合、「週7日のランジェリー」という巨 大な市場をはっきり見据えていたので、「週末だけのランジ ェリー」では終わらず、攻めたてて成功を掴んだ上でも気 を緩めることなく、ブランディングも本気で行い、地位を 確立していったという言い方もできます。

結局はトップが、潜在市場のどこまでが見え、どこまでを 目指すのか? という話ですが、ビジネスの世界に安息の 地などないことを知っている企業のみが生き残っている気 がします。続きます。

2015年7月16日木曜日

日本ブランド衰退の理由④ 商品力

(U.S. FrontLine誌 2013年5月5日号 掲載分)

前回、女性ランジェリーのブランドで有名なヴィクトリア ズ・シークレット(VS)のサクセスストーリーの序章をお 話ししました。現VSのオーナーであるレス・ウェクスナー 氏が、さまざまな分析をした結果、イタリアの有名な超高 級ブランド「ラ・ペルラ」のような高品質とセンスで、手 の届く価格帯の「大衆向けラ・ペルラ」を、快適な買い物 空間と共に提供すれば、女性は週末など特別な日だけでは なく、ヨーロッパのように日常的にランジェリーを身につ けてくれると考え、業界に革命を起こそうとしたのです。 架空の“ヴィクトリア”というブランド創始者の伝説を仕 立て上げ、ブランド・アイデンティティの確立を目指し、 カタログにスーパーモデルたちを起用し、従来のセクシー 系下着カタログの卑猥さを排除し、誰が見ても恥ずかしく ないファッション風に仕立てるなど、斬新で画期的な試み も功を奏しました。

さまざまな固定概念を破り、特にファッション性で消費者 に定評を得ていったVSですが、着け心地といった面には、 あまりケアしてこなかったようで、1995年の年商19億ド ルの段階では、まだランジェリーは週末のみの存在であり、 革命には至っていませんでした。

消費者のための本当の差別化

1997年に「きっと世界一美しいブラ」として売り出した 商品は、見た目が美しいだけで着け心地が悪く、一時的な 話題で終わり、翌年に発売した「ハイテク・ランジェリー」 も失敗に終わり、商品のデザイン・縫製などを根本から見 直す決断をしたそうです。

そして1999年に、競合他社や消費者の情報を収集して研 究した結果、シームレスで柔らかく滑らかで、高いフィッ ト感とすばらしい着け心地の「ボディ・バイ・ヴィクトリ ア」というブラジャーを開発しました。これは価格も34ド ルとデパートの平均価格の2倍以上だったにも関わらず、 発売からわずか6週間で完売という大ヒットを起こしたの でした。この段階でようやく、アメリカ人でも日常的に身 に着けるランジェリー(革命)を達成したそうです。 この話で改めて感じるのが、「モノが売れる・売れないは 必ずしも値段ではない」ということ。そして、消費者の欲 求を常に研究・把握した上で、「本当に消費者が欲しがる、 差別化された商品」を提供することが、やはり最後は決め 手になるということです。

売れない原因を正しく認識

ビジネスがうまく行っていないとしましょう。原因の切り 分けとして、潜在顧客にうまくリーチできていない・露出 ができていないのであれば、マーケティングに問題があり ます。露出はできていて、売上につながらないとすれば、 ブランド・商品・サービスの訴求力に問題があるというこ とです。後者の場合でも、売り物が消費者のニーズ・欲求 を十分に満たす、差別化されたものであるならば、これも マーケティングの問題なのですが、そうではない場合、売 り物自体に問題があるということです。

先のVSの例でいえば、週7日のランジェリーの領域に到 達できていなかった原因を、売り物の問題だと自覚し、失 敗を繰り返しながらも、当時のピチピチのTシャツという 流行をきっちりとらえ、ブラのラインが見えにくくて着け 心地が良いものを開発することで、ようやく消費者の欲求 を満たし、今日の成功があるわけです。間違ってもスーパ ーモデルの起用など、膨大な広告費を投じたからではない のです。それでも失敗した時期もあったくらいで、商品力 ありきでなければ、本当の成功などないということです。

「日本では売れていた」は、気休め

市場が違えばニーズも嗜好も全く別物です。違いを分析し、 研究を正しく行えば、応用が利く部分はありますが、単に 日本の物や考え方をそのままアメリカに持ち込んだだけで は、苦戦するのは当然です。日系企業にありがちなのが、 コンセプトは良いのに、アメリカ市場向けにアレンジする 必要性を軽視しているか、消費者を甘く見ているケースで す。自分の潜在顧客の像を直視せず、事業を展開しよう (できる)と考えているのです。

わが社もマーケティング屋として、例えばSEO(検索上 位表示)、PPC(広告)、SNSやバイラル(口コミ)などを 活用して、潜在顧客を集客し、サイトのコンテンツで購買 意欲を促進させるお手伝いをしているわけですが、われわ れにできることは、最初に売れるようにするところまでで す。購入者の満足を得られるかどうかは、商品・サービス の品質次第であり、カスタマーサービスなども含め、われ われの管轄外の要因で、結果としてビジネスがうまくいっ ていないというケースが、過去いくつかありました。顧客 がリピートしないようなビジネスは救えません。マーケテ ィングは魔法ではないのです。続きます。 もっと詳しくブランディングについて知りたい方はこちらも参照ください: ブランディングが必要な理由

2015年7月2日木曜日

日本ブランド衰退の理由③ 分析とBI

(U.S. FrontLine誌 2013年4月20日号 掲載分)

前回、消費者は高くても買う場合と、できるだけ安く買う 場合を使い分けており、少し背伸びすれば誰でも買える “新しい贅沢品”と呼ばれるカテゴリーは、何らかの思い入 れにより、「高くても買いたい」という衝動を起こさせるこ とに成功している分野であるとお話ししました(従来の金 持ちが自己顕示欲のために購入する贅沢品と区別する意味 で「新しい」と明記)。また、その成功例として、女性ラン ジェリーのブランドで有名なヴィクトリアズ・シークレッ ト(VS)の成功例に触れました。

冷静な分析から始める

VSのオーナーであるレス・ウェクスナー氏は、1982年 に、年商400万ドルながら倒産しかけていた、VSという名 の4店舗のセクシー系ランジェリーストアを100万ドルで 買収し、1985年以降、毎年売上を25%、店舗数を16%増 やし、1995年で既に年商19億ドル、670店舗という規模 にまで成長させました。しかし、これもまだサクセススト ーリーの序章に過ぎませんでした。

最初の数年は、以前と同じ運営を継続しつつ、さまざまな 分析の時間にあてたそうで、前の店は、セクシー系ランジ ェリーの購買層を男性と想定し、内装も男性向け(アダル トショップ風)に施されていたことで、女性には店内が快 適ではない空間になっていた上、男性が好む下着は、女性 からすると魅力も感じられず、着け心地も悪かったと分析 しました。

アメリカのデパートも研究し、当時の売り場は、実用性重 視でロマンスは皆無、贅沢な品を購入しても贅沢な気分に はなれず、店員の知識も乏しく、買い物が快適な体験には なっていないと分析しました。

さらに1着のブラジャーが75ドル以上もするような高級 ブランドの下は、10〜15ドルのデパートブランドのほか、 3〜10ドル以下の下着という感じで、価格帯にかなりの開 きがある上、その隙間に目ぼしい競合もほとんどおらず、 ブラジャーの半分はセール品として売られ、「20ドル以上の 品は大量に売れることはない」というのが当時の通説だっ たそうです。

またヨーロッパの女性は、日常的に「ランジェリー」を着 けているのに対し、アメリカの女性は、日頃は「下着」を 着けているという文化の違いも把握し、イタリアの有名な 超高級ブランド「ラ・ペルラ」のような高品質とセンスを持 ちつつ手の届く価格帯の「大衆向けラ・ペルラ」を提供でき れば、業界に革命が起こせると考えたそうです。それこそ 魅力的で憧れを抱くような商品と、快適な買い物空間を提 供すれば、週末など特別な日だけではなく、日常的にラン ジェリーを身に着けてくれるようになるという構想でした。 そこで世界で一番美しい人たちが買い物をする空間という コンセプトを打ち立て、店舗の内装やディスプレイを女性 向けにロマンチックで魅力的に変え、ヨーロッパのランジ ェリーのテイストを意識しながら、流行に合わせたファッ ション性を備え、良い生地と優れた縫製方法を採用して、 大衆に手の届く価格帯で提供していったのです。

ブランドアイデンティティの確立

コンセプト実現のために、彼は架空の“ヴィクトリア”と いうブランド創始者の伝説も作り上げました。イギリス系 とフランス系の血を引く、世界トップモデルで洗練された 美貌とセクシーさを持つ彼女が、ロンドンに店を持ち云々、 と言う具合です。

このキャラクター設定やストーリーをブランドイメージと して活用し、マーケティング関係者は勿論のこと、店舗ス タッフに至るまで、自らそれを語れるくらいにまで浸透さ せ(対外的にも浸透したかは不明ですが)、共通のビジョン を持たせてブランド・アイデンティティ(BI)を確立させて いったのです。

また当時業界におそらく衝撃を起こしたであろう、ランジ ェリーのカタログにスーパーモデルを起用するという大胆 な行動も、前回の「固定概念を破る」であり、コンセプト を具現化するための手段の1つだったのでしょう。聞いた 話では、従来のセクシー系下着カタログの卑猥さを排除し、 誰が見ても恥ずかしくないファッション風のカタログにし たのも画期的だったようです。

日本からアメリカへ進出して来られる企業で、「アメリカ 人は××だから」と浅い分析と間違った戦略で、売れない 理由を片付けているのをよく見かけますが、失敗の言い訳 を考える前に、成功できる要因をもっと探すべきなのです。 仮に文化の違いがあっても、それを力づくででも浸透させ ていくぐらいの戦略と根性が必要ということでしょう。続 きます。

もっと詳しくブランディングについて知りたい方はこちらも参照ください: ブランディングが必要な理由