2015年6月22日月曜日

日本ブランド衰退の理由② 選択消費

(U.S. FrontLine誌 2013年4月5日号 掲載分)

前回は、アメリカの消費者行動について10年くらい前に 書かれた「トレーディング・アップ(マイケル・J・シル バースタイン著)」という書籍が、なぜ今、アメリカで日本 製品が売れなくなっていったのかを、結果的にきれいに説 明してくれていることに触れ、最終的に生き残れるのは、 個性や熱狂的なファンベースのある高級ブランドと、とに かく低価格の商品の二択であり、特徴もなく中間を狙った ブランドは、淘汰される傾向にあること、および顧客を甘 く見た薄っぺらい広告戦略は、危険であることをお話しし ました。

消費者は高くても買う場合と 安く買う場合を使い分けている

BMWに乗っている人が、普通にターゲットでも買い物を するといった、一見アンバランスな現象が起きているよう です。本当に裕福でなければ、全てを高級品では揃えられ ないので、多くの人は、こだわり、価値を感じているもの には高いお金を費やす一方で、特に理由がなければ、でき るだけ安いものを選ぶという行動心理が働いていると同著 では指摘されています。

皆さんはいかがでしょうか? 私自身は正にそんな感じで す。楽器機材やコンピュータになら、価値を感じるものに は相応のお金を投じようと思いますが、例えばタオルや加 湿器なら、必要と考えているスペックさえ満たせば、値段 は安いに越したことはないと考えている自分がいます。

著者は特に“新しい贅沢品”と呼ばれる分野において、こ の行動パターンが顕著にみられると指摘しています。この 贅沢品は、一般の人でも少し背伸びをすれば手が届くもの で、何か強い思い入れにより、「高くても買いたくなる」商 品を指し、虚栄心で購入されるような従来のタイプのもの と区別する意味で、“新しい”という表現を使っているよう です。

この不況下で、生活必需品以外の商品を販売している企業 からすると、どうやってこの「高くても買う」というカテ ゴリーに入れてもらえるかが、今後のマーケティングにお ける重要課題になることは間違いないでしょう。

固定概念は破っていくもの

この本に登場する、女性ランジェリーのブランドで有名な ヴィクトリアズ・シークレット(VS)のオーナーであるレ ス・ウェクスナー氏の話は、非常に興味深く、アメリカ進 出、あるいは日本で新製品展開をしているクライアント企 業のケースにもかなり適用できる上、我が社がこれまでし てきたこと、しようとしていることともかぶる部分が多く、 私のつたない説明より余程うまく伝わりそうだったので、 読んでいて何だか嬉しくなってしまいました。

彼は1963年に、ザ・リミテッド(The Limited)という 女性用スポーツウェア専門店を立ち上げ、1969年には上場 し、1970年に11店舗だったものを1979年には全国318店 舗にまで成長させ、今日でも順調に運営しており、VSの大 成功の前に、既に別のビジネスで成功していました。

当時のアメリカは、ファッション的には都会であってもヨ ーロッパより2〜3年は遅れており、アメリカの中部など の田舎は、都会よりさらに2〜3年遅れで、そういった田 舎に先端のファッションを持ち込んでも売れないという通 説があったそうです。しかし彼は「女性は見たことのない ものにより興味を示す」「田舎では単に買えないから売れて いない」と分析し、田舎へも店舗展開して爆発的に売上を 上げたことで、その分析が正しかったことを証明しました。 さらに彼は、1982年に、VSの名で4店舗を運営し、年 商400万ドルながら倒産しかけていたセクシー系ランジェ リーストアを100万ドルで買収し、1985年以降、毎年売上 を25%、店舗数を16%増やし、1995年で既に年商19億ド ル、670店舗という規模にまで成長させたのです。

VSの話はいろいろと役に立つポイントがあり、一度では とても書き切れないので次回でも触れますが、彼はさまざ まな分析をしていく中で、ヨーロッパの女性は、日常的に 「ランジェリー」を着けているのに対し、アメリカの女性は、 日頃は「下着」を着けているという文化の違いがあるのを 確認し、アメリカの女性も毎日「ランジェリー」を着ける ような文化的革命を起こそうとした人なのです。

それはすなわち、高級品でありながら大量に販売できると いう、従来の数理的常識をも覆す試みでもありました。彼の印象的な言葉で、Women need underwear, but women want lingerie. I like to be want business.という ものがあります。要は贅沢品の方がマージンを多くとれる ので、自分はそちらの方のビジネスを好むというものです が、実は世の中の大半のビジネスがこの「Want」ビジネス に当てはまると思います。彼の「Want」ビジネスの成功術、 知りたくないですか? 次回に続きます。

もっと詳しくブランディングについて知りたい方はこちらも参照ください: ブランディングが必要な理由

2015年6月2日火曜日

日本ブランド衰退の理由①

(U.S. FrontLine誌 2013年3月20日号 掲載分)

アメリカの消費者行動について10年くらい前に書かれた 「トレーディング・アップ(マイケル・J・シルバースタイン 著)」という書籍をたまたま教えてもらったのですが、そこ で指摘されている内容が、今の時代に当てはめても、消費社 会の現状をなかなか見事に言い当てており、我が社が意識・ 経験し、実践してきたこととの関連も多々あったので、何回 かに分けて、私なりの視点も交えて紹介したいと思います。

中間を狙うブランドはいずれ消える

この本で、一番重要なテーマだと私が感じたのは、最終的 に生き残れるのは、個性や熱狂的なファンベースのある高 級ブランドと、とにかく低価格の商品の二者であり、中途 半端で特徴もなく中間を狙ったブランドは淘汰される、と いう話です。

10年前を振り返ってみると、例えばBest Buyの家電コー ナーに行けば、冷蔵庫や洗濯機など、日本のブランドが割 りと高い値段で売られていた記憶があります。オーディオの コーナーでも、日本の製品がかなり棚を占領していました。 ところが今ではどうでしょうか? 家電コーナーで、日本 のブランドを全く見かけないことも多々あります。ひっそ りと並べられていて、単に気付かなかったということもあ るのかもしれませんが、サムソンなど韓国のブランドや低 価格の中国勢ブランドに圧倒され、とにかく影が薄くなっ てしまったことは間違いないでしょう。

この本は、なぜアメリカで日本製品が売れなくなっていった のかを、きれいに説明してくれていたことに気付かされます。

(もっと詳しくブランディングについて知りたい方はこちらも参照ください:ブランディングとは?)

消費者を甘く見ないこと

先日、某クライアントに色々と厳しいことを言わなければ なりませんでした。こちらは日本を市場とするメーカーさ んで、我が社はウェブマーケティング全般を担当している のですが、カタログの制作会社へ「とにかくインパクトを 出してほしい」というリクエストをクライアントがしたそ うです。

そのカタログが、「クールさ」を出すという意味で西洋人 モデルを使い、おそらく誰も(仮にどの人種でも)しない ような格好をさせ、キワモノのような存在で、リアリティ が全くない路線。それでいて、誰の理想にも憧れにもなれ ていないので、ポイントが何もないものだったのです。

例えるなら、西洋人向けに、芸者・ちょんまげでもテキト ーに出して日本を“イメージ”して見せたようなものでし た。そういう広告は、日本人には「現実の日本の姿には程 遠い」とすぐに感じられてしまいますが、西洋人向けには、 それが現実離れしていても、実は大して問題がないことも あります。

ただ今回のケースでは、「日本=芸者・ちょんまげ」とい うような広告を、むしろ日本人に見せて販促効果を狙おう とするような行為だったので、ターゲットユーザーからす れば、自分たちを全く理解していないと映るか、ともすれ ばバカにされているとすら感じさせてしまうものになって いました。それがユーモアを狙ったものでもなかったので、 正に「痛い」と伝えました。

コンセプトが重要

それこそ男性社員を女装させても何らかのインパクトは出 せるでしょう。重要なのはその先で消費者に起こさせる感 情で、商品やブランド、会社に対して何らかのポジティブ な印象を残すことがマーケティングの第一歩だという前提 を、このクライアントは完全に見失っていました。

何よりも馬鹿げていたのが、本来このクライアントは、強 い特徴と多くのユーザーに好感を持たれる材料をたくさん 持っていたのに、この薄っぺらいコンセプトのおかげで、 それらを台無しにさえしようとしていたことです。そして そのことに、企業や制作者が全く気付いてさえいない…。

多くの日系企業に共通して感じるのは、自分たちの顧客層 や特徴をまともに分析できていないということです。アメ リカへ進出してくる企業の方に、「なぜ貴社の製品が売れる とお考えですか?」と尋ねると、大体は「日本製で高品質 でうんぬん」というような感じなのですが、それだけでは 特徴にはなりにくく、中間ブランドは淘汰される原則に適 合してしまうわけです。

かといって高い値段を付けて、日本ブランドで高品質だか らと主張したところで、それが消費者に伝わらなければ、 誰もハイエンドのブランドだとは認めてくれません。

消費者は年々賢くなってきており、“なんちゃって広告代 理店”あたりがやるような、「単にらしいだけのミーハーで内 容のないキャンペーン」に乗せられる人はほぼいないと、こ れまでずっとクライアントに説いてきたのですが、実に多く の企業が、甘い認識をしていることに、毎度驚かされます。