日本ブランド衰退の理由④ 商品力

(U.S. FrontLine誌 2013年5月5日号 掲載分)

前回、女性ランジェリーのブランドで有名なヴィクトリア ズ・シークレット(VS)のサクセスストーリーの序章をお 話ししました。現VSのオーナーであるレス・ウェクスナー 氏が、さまざまな分析をした結果、イタリアの有名な超高 級ブランド「ラ・ペルラ」のような高品質とセンスで、手 の届く価格帯の「大衆向けラ・ペルラ」を、快適な買い物 空間と共に提供すれば、女性は週末など特別な日だけでは なく、ヨーロッパのように日常的にランジェリーを身につ けてくれると考え、業界に革命を起こそうとしたのです。 架空の“ヴィクトリア”というブランド創始者の伝説を仕 立て上げ、ブランド・アイデンティティの確立を目指し、 カタログにスーパーモデルたちを起用し、従来のセクシー 系下着カタログの卑猥さを排除し、誰が見ても恥ずかしく ないファッション風に仕立てるなど、斬新で画期的な試み も功を奏しました。

さまざまな固定概念を破り、特にファッション性で消費者 に定評を得ていったVSですが、着け心地といった面には、 あまりケアしてこなかったようで、1995年の年商19億ド ルの段階では、まだランジェリーは週末のみの存在であり、 革命には至っていませんでした。

消費者のための本当の差別化

1997年に「きっと世界一美しいブラ」として売り出した 商品は、見た目が美しいだけで着け心地が悪く、一時的な 話題で終わり、翌年に発売した「ハイテク・ランジェリー」 も失敗に終わり、商品のデザイン・縫製などを根本から見 直す決断をしたそうです。

そして1999年に、競合他社や消費者の情報を収集して研 究した結果、シームレスで柔らかく滑らかで、高いフィッ ト感とすばらしい着け心地の「ボディ・バイ・ヴィクトリ ア」というブラジャーを開発しました。これは価格も34ド ルとデパートの平均価格の2倍以上だったにも関わらず、 発売からわずか6週間で完売という大ヒットを起こしたの でした。この段階でようやく、アメリカ人でも日常的に身 に着けるランジェリー(革命)を達成したそうです。 この話で改めて感じるのが、「モノが売れる・売れないは 必ずしも値段ではない」ということ。そして、消費者の欲 求を常に研究・把握した上で、「本当に消費者が欲しがる、 差別化された商品」を提供することが、やはり最後は決め 手になるということです。

売れない原因を正しく認識

ビジネスがうまく行っていないとしましょう。原因の切り 分けとして、潜在顧客にうまくリーチできていない・露出 ができていないのであれば、マーケティングに問題があり ます。露出はできていて、売上につながらないとすれば、 ブランド・商品・サービスの訴求力に問題があるというこ とです。後者の場合でも、売り物が消費者のニーズ・欲求 を十分に満たす、差別化されたものであるならば、これも マーケティングの問題なのですが、そうではない場合、売 り物自体に問題があるということです。

先のVSの例でいえば、週7日のランジェリーの領域に到 達できていなかった原因を、売り物の問題だと自覚し、失 敗を繰り返しながらも、当時のピチピチのTシャツという 流行をきっちりとらえ、ブラのラインが見えにくくて着け 心地が良いものを開発することで、ようやく消費者の欲求 を満たし、今日の成功があるわけです。間違ってもスーパ ーモデルの起用など、膨大な広告費を投じたからではない のです。それでも失敗した時期もあったくらいで、商品力 ありきでなければ、本当の成功などないということです。

「日本では売れていた」は、気休め

市場が違えばニーズも嗜好も全く別物です。違いを分析し、 研究を正しく行えば、応用が利く部分はありますが、単に 日本の物や考え方をそのままアメリカに持ち込んだだけで は、苦戦するのは当然です。日系企業にありがちなのが、 コンセプトは良いのに、アメリカ市場向けにアレンジする 必要性を軽視しているか、消費者を甘く見ているケースで す。自分の潜在顧客の像を直視せず、事業を展開しよう (できる)と考えているのです。

わが社もマーケティング屋として、例えばSEO(検索上 位表示)、PPC(広告)、SNSやバイラル(口コミ)などを 活用して、潜在顧客を集客し、サイトのコンテンツで購買 意欲を促進させるお手伝いをしているわけですが、われわ れにできることは、最初に売れるようにするところまでで す。購入者の満足を得られるかどうかは、商品・サービス の品質次第であり、カスタマーサービスなども含め、われ われの管轄外の要因で、結果としてビジネスがうまくいっ ていないというケースが、過去いくつかありました。顧客 がリピートしないようなビジネスは救えません。マーケテ ィングは魔法ではないのです。続きます。 もっと詳しくブランディングについて知りたい方はこちらも参照ください: ブランディングが必要な理由

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